チリリリリン、と無意味にベルを鳴らしながら駐車するサトシ。自転車の後ろには住吉悟詩と盗難防止に書かれていた。住所も。逆に不用心だと思うが、俺のチャーリー二号にも名前が書かれている。母親に無理やり書かされた。
本当は、鈴木光宙-ピカチュウ-なんて書きたくなかった。恥だ。わざわざルビまで振らされた。なんの目的だよ。俺には母さんの考えることはよくわからない。
わからないけれど、1人で生きていく術のない俺は、母さんの言うことを聞くしかなかった。
さっきも話したが、俺の名前は母さんが名付けた。ピカチュウのように国境を問わず愛される子になって欲しいと願いを込めて。
母さんはメキシコに一年ほど住んでいたことがあるのだが、Pokemonは世界的なコンテンツだと熱く語っていた。向こうの人も大好きなのよ、と。ちなみに、ピカチュウじゃなかったら、主人公サトシの英名のアッシュにしようと思ってたらしい。
母さんは平凡なものが大嫌いだ。
俺は、そんな母さんのくれた小遣いを握りしめて、平凡な塩ラーメンを注文した。
ラーメン屋といっても、イオンモールに併設されたフードコートの一角だ。
サトシが先に四角いテーブルの4人席に座っていたので、真向かいに座る。
そこから少し離れたテーブルには女子中学生と思われる集団が座って、きゃっきゃウフフと談笑していた。
「あ」
俺はそのうちの1人と目があった。
「鶴子さん!」