年度の変わる今ごろは、昔の落ち着かない記憶が蘇る。子供時代は卒業と新しい学校への期待と不安。大学時代の2~3年はバイト天国。仕事に就いてからは、年度末の各種締め切りとの競争。時間切れで新年度になだれ込む。

 なかでも異動は。新しい職場への不安。この不安の理由は具体的に何も準備ができないこと。

長く公立学校に勤務したので、未だに毎年この時期は睡眠不足になり胃が痛くなる。私は、一つの職場に最長6年、最短は1年で異動した。希望のかなった異動はほぼなかった。何故、多くの公立学校では、敢えて異動者全員がやや不満を持つように動かすのだろうかと思っていた。それは、A先生の希望がかない、B先生に不満がたまる異動というのは組織として避けるべきである、と異動の担当者が考えるからであろう。というわけで、昇任の異動以外の公立学校の先生方は、この時期浮かない顔をしている。桜が満開の季節であるのに。

 私は公立学校定年退職後、数年私立学校に勤めた。私立学校では、基本的に公立学校のような異動は見られない。異動の殆どが着任と退職であり、40年近く勤めあげる教員が普通である。20代半ばから40年近く一つの学校に勤めるということは、その学校に骨を埋める覚悟である。それ故、学校への思いは、私のような公立学校経験者とは比較にならないくらい深い。公立学校と私立学校の一番大きな違いはここにある。私立学校の教員は、全て自分事であり真剣である。例えば、生徒募集がうまくいかないと、自分の生活に直接関わってくる。

 しかし、良いことばかりではない。校内運営の力量のある教員は発言権が増す。その結果、長期間権勢を発揮し、取り巻きが集まる。時折こうしたグループの意見が対立することがある。これは、公立の学校でも見られることであるが、私立学校は対立が内にこもっても、極端な決裂は見られない。それは対立しても、異動がないため、お互い定年まで同じ学校で過ごさねばならないからである。公立学校の場合の教員はある意味気楽である。お互いが、嫌なことがあっても、2~3年我慢して嫌なら異動すれば良いと考えるから、意見が対立しても折り合わないことがある。

 最近、私立中学校・高校の人気が高まっている。私立中学校・高校の長所は先に述べた通り、教員の異動が極端に少ないことである。一旦その学校に就職したら、彼らはの多くは長い年月勤務するため、指導のノウハウが長期間にわたり蓄積される。これが高校、大学への受験指導に遺憾なく発揮される。一般的には、この受験指導の充実と進学実績が私立中学・高校の最大の長所と考えられている。また、年々大幅な教員組織の変更が少ないために校風など学校の個性・特色が確立しやすい。つまりその学校の伝統を醸成し、外部に広報しやすい。

 公立中学校・高の長所は先に述べたことが逆に長所となる。異動があるので、校長・副校長は2~4年。幹部教員・一般教員共に2~最長8年、毎年誰か異動するので、3年程度で校内の雰囲気は一変する。つまり、教員グループの対立など、好ましくない雰囲気などが校内にあってもそれが、長期間固定しない。3年程度たてば、異動が続き別の学校になったように見える。このように良い意味で、校内の風通しが良いのである。

 それでは、風通しのよいことは良いのだが、教員の出入りの多い公立中学校・高校では、どのように教育の一貫性を保ち、指導ノウハウを蓄積するのかが、問題である。そこで、公立学校を設置する教育委員会の役割が重要になる。区市立中・高校は区市教育委員会、都道府県は都道府県教育委員会の指導力に全てがかかっている。全ての教員が、現在勤務している中学校・高校だけ考えるのではなく、区市や都道府県全体の職員であるという自覚を持つべきである。

 最近、ある私立高校の沖縄修学旅行で、痛ましい水難事故が起こった。これは公立中学校・高校では起こり得ない事故である。公立の中学校・高校では個別に、管轄の教育委員会が修学旅行の全行程と費用関係について、かなり入念な事前チェックを行うからである。また、私立中学校・高校の生徒が非行問題を起こす、いじめに合う、不登校になるなど何か問題があった場合、保護者は直接学校と話し合わねばならない。そこに教育委員会が仲介には入らないのである。それは、教育委員会は私立学校の教育内容は管轄外で関われないからである。このあたりは、私立中学校・高校人気の陰に隠れており、保護者の方々はあまり気にしていないようであるが、公立学校には、フェイルセーフ機能としての教育委員会が後ろに控えているのである。