あたしの叫びを聞いて警察官たちはあたし達の方へと来る。

「そう言うつもりじゃないのは、分かるんだけど、押さえられる力がほぼ暴力に近くて」

そうあたしが、警察官に言うと、彼も負けじと

「俺だってさっき、車椅子のまま突き飛ばされた」

と反論。

何とも、しょうもない言い争い。
しかし、この高齢者社会の中で、身体に障害を持つものより、介護にあたる者の方がずっと辛いと言う事を、もうある程度の人は把握をしていたのかもしれない。

警察官は彼の方に向って言う。

「身体が不自由で分かるけど、もう少し優しくしてー」
言いかけたところで、彼は言う。
「訴えるなら訴えろよ!おれは戦うぞ!」

これが新婚半年の夫婦の会話だろうか?
夫婦にすらなってない。
愛されてる実感すら持つことなく、ただあたしは彼の元へと来た。
ここまでやっと来て、これから・・・と言う時に既にあたし達には、「絆」など無かったのかもしれない。

「じゃあ、奥さんは訴えますか?」
しめしの着かない会話と判断したのだろう。
警察官はあたしに言う。

「とりあえず、もう一度、話し合います」
あたしはそう言って、ゴミ籠から彼が捨ててしまった洋服が入っているゴミ袋を取り出し、二人で部屋まで戻る事にした。
彼も素直に戻ってくれた。



「お前が捨てて良いって言ったんだろう」
家に戻り、彼はまだそんな会話を続けるつもりなのか、言ってくる。
しかし、少しは気も静まったのか、あたしの話にも耳を傾けてくれそうなので、あたしは

「何をやっても怒ってくる」

と、やっと言うことが出来た。

親に電話しただの、自分が片づけをしてるのに、タバコを吸っているだの、それまでの経緯などお構い無しに、彼は被害妄想にでもかかったように、ただあたしが悪いとでも言いたいようだ。

早い話が、あたしは彼の隣で一緒に片づけをすれば良かったらしい。
「じゃあ、一緒にやろう」くらい言えないのかすら思うのだが、そんな事を言える彼では無い事も、あたしは分かっていたのに、ここまでこじらせてしまっていた。

ただの子供…。
あたしの中ではそんな思いがあった。
しかし、その子供をコントロールできないで居たあたし自身も彼に対してかいかぶっていたところもあったのかもしれない。
確実に何かが離れていくのは分かっていた。

「早くしないと、今夜寝るところが無いよ」
あたしはそう言いながら、彼の隣で片づけを見ていた。


「後はお前の服だけだよ」と言ってきたので、
「自分が全部、ひっくり返したんでしょ?最後までやってよ!」
あたしは最後まで彼にやらせた。

既に、彼とやっていく自信などなかった。
彼自身もそうだったのかもしれない。

いつからだろう、お互い背中を向けて寝るようになっていた。

 

 

その夜、彼が突然、押入れの中の掃除機の入れ方が気に入らないと言ってきた。
あたしは、何度か直したのだが、どうやっても気に入らないと言う。

 

「ここは俺の家なんだから、俺が生活しやすいようにするんだ!お前は、片付け方を知らな過ぎる」
そういって、全ての物をブチ撒いたのだ。
押入れの中のものから、タンスやクローゼット、衣装ケース、整理棚、全ての中の物全てだ。
あたしは、そんなにあたしの入れ方が気に入らないのなら自分でやれよ!と思い手を出さなかった。
あたしのすること、なす事全てが気に入らないのだろう。

彼の前に一面に広がった家中のものを、彼はペン1つ1つから、ケースに入れていった。
あたしは手を出す事で、言われるのだから、台所で座ってタバコを吸っていた。

そうすると

「お前は、俺が片付けてるのに、何一人でくつろいでるんだよ」

と怒鳴る。
「だって、あたしがやることが気に入らないんでしょ」
そう言うと、ダンボールに入っていたものを、別の場所にしまい込み、空になったダンボールをもうダイニングに放り投げる。

 

仕方がないので、あたしはそのダンボールを集めて、ヒモでくくり捨て易いようにしていると、今度は

「お前は、そんな事しかできないのか!」

と始まる。

あたしには、どうして良いのか分からない。
やってもダメ、やらなくてもダメ。
それより何より、彼の怒りが恐くてたまらない。

「お前は、何でいるんだよ!」そんな事ばかりを繰り返す。

ウンザリだった。
何もかも、ウンザリだった。
彼のやっていることが、どれだけあたしをバカにしているか。
そのあたしに対しての怒りは、どこから来るものなのかあたしには、さっぱり分からない。

 

あたしは、実家の父に電話をかけて、その状況を初めて親に言った。
勿論、彼の前である。
父は酔っていたのか、はっきりした応答はなく

「落ち着いたらまた電話しなさい」と切られてしまった。
 

その電話に、彼の怒りに油を注いだ形になってしまった。
彼は物凄い勢いで、あたしに罵声を浴びせる。
正直、殺してしまおうかとあたしは思ったほどだった。
あたしだって我慢にも限界が来る。


「お前のモノは自分で整理しろよ」と言った彼に、
「あたしの物も全て放り出したのも自分でしょ!じゃあ、良いよ。捨てて」と言って、あたしは自分の服をゴミ袋に入れて、そのまま家を飛び出した。

時間は夜9時を過ぎていた。
あたしは家を飛び出し、駅ではない方に向う。
電車に乗ってしまうと、本当に遠くまで行ってしまいそうな自分を抑えたかった。
「もう一緒には居られない」と言う嘆きと「話し合えば何とかなるかも」と言う期待が、あたしの中で交差していた。

30分ほどして、マンションの前にあるゴミ籠を見ると、あたしが勢いで自分の服を入れたゴミ袋が、本当に捨ててあった。
そのゴミ籠に入っている洋服を見て「あたしは彼から、こうやって本当に捨てられるのかな」と思った。

 

すると、2袋目のあたしの服が入ったゴミ袋を持った彼が、またエレベーターで降りてきた。
「何で本当に捨ててるの?」あたしは言う。

「お前が捨てて良いって言っただろう」と彼が言う。
 

話にならない会話だという事が、分かってもらえるだろうか?
怒りを通り越して、悲しみさえない。
ただ、呆れるだけ。

丁度、そのマンションの前に停めてる違法駐車の取締りをしていた警察官がいたのであたしは、大声で言った。

 

「お巡りさん、この人、あたしのモノを勝手に捨ててるんだけど、器物損壊にならないですか?」

二人の巡回中の警察官は、あたしの話を聞きに近づいてくる。
あたしの咄嗟の行動に彼は少し驚いたような顔をしていた。
あたしは、もうどにでもなれ!という感じだった。

 

 

 

引っ越したマンションは、病院のすぐ傍だった。
朝になり、

「病院行くぞ!」

と彼は言って来たが、あたしは荷物を早くダンボールから出したかったので、

「一人で行って来て」

と言った。
珍しく、彼は何も言わず、一人で出かけた。

 

あたしは気にすることなく、彼が病院から戻ってくるまでには、何とか一段落できるまで荷物を出してしまおうと、躍起になっていた。
まずは、唯一の一部屋に全ての荷物を入れていたため、それをまず、リビングに全部出して、持ってきたカーペットを敷いて、また家具を置く。
正直、洋服ダンスなどは、とっても大変だった。
しかし、彼に「やって」と言ったところで、できない事は分かっているので、あたしがやるしかないのだ。

午後になっても彼は帰ってこなかったので少し帰りが遅いとは思っていた。
でも、総合病院だし、時間もかかるのかもしれないと、あたしは携帯に電話もせず、荷物出しをやっていた。

午後2時。
余りにも彼の帰りが遅かったので、病院で何かあったかな?と思い、携帯に電話をする事にした。
院内なのでもしかしたら電話には出られないかもしれない。
そう思いながら、かけてみると、彼が出た。

「あっ。今丁度、住所変更とか終わったところだよ」

「えっ?役所に行ってたの?」何も言ってなかったのであたしは驚いた。

「警察にもね。免許書とかの住所変更もしなきゃさ」
「あたしだってするんだから~。病院から戻ってきたら一緒に行くのかと思ってたのに」

少しいじけた感じであたしは言った。

そう言うと、彼は言った。
「自分の事は、自分でやれよ。各自だよ」

病院に、一人で行ってと言った事が、彼の気に障ったのだろうか?
「分かった。じゃあ、今度一人で行くからいいわ。帰りに飲み物買って来れる?」

「ああ・・・」
そう言って、電話を切った。

あたしはまた、汗だくで荷物出しに精をだした。
20分ほどしてだろうか?
彼が手ぶらで帰ってきた。

「あれ?飲み物は?」
そう言うあたしに彼は言う。

「何で俺が買って来なきゃいけないんだよ。俺は小間使いかよ!」

即効に冷蔵庫を売ってしまったのは彼である。
モノを冷やす事も出来ないから、飲み物すら買ってきていなかった。
それに「買ってきて」と言ったときに、嫌だったら「面倒だよ」とか「無理」とか言ってくれれば、それだけで済む事なのに。

あたしは半ば、キレかかりそうになりながら、一人コンビニまで走った。
しかし、争いはそんなものではなかった

 

 

朝から、少しドキドキしていた。

最近、緊張するように動悸が止まらない。

時には目眩さえもした。
何かをしでかすと、彼が怒ってしまいそうで、
「9時きっちりには、引越し屋が来るぞ!」の言葉で、あたしの恐怖感は増した。

「荷物を運び終わるまでに、不動産屋さんが来なかったらどうするの?」
「えっ?引越し先のマンションにはどうやって行くの?」

バタついている中で、彼に聞きながら、あっちこっちとウロウロしていたあたしだった。

9時、引越し屋さんが来る。
荷物を全部運び終わる前に、今の不動産屋さんも来たので、そのまま引渡し完了となり、あたし達はタクシーで引越し先のマンションへと移動。
荷物が運び入れられ、終了したのが、お昼頃だった。
ガス屋さんが来て、引越し終了!と行きたいところだったが、トラブル発生!!

 

冷蔵庫の設置する場所が決まってしまう間取りなのだが、使っていた冷蔵庫が大きくて、その設置場所に入らなかった。
とりあえず、手前に置いて貰って、までは良かったが、彼は、

「これは売りだな。リサイクルに引き取ってもらうよ!」

と、すぐにリサイクルショップに電話。
あたしが

「えっ?」「えっ?」

と戸惑っている間に、既にお店の人が来て、彼はさっさと冷蔵庫を売りさばいてしまった。

あたし達が結婚した時に、彼の親が買ってくれた冷蔵庫。

買ってから半年くらいなのに…。
それに安いからと言って、大量に買って冷凍していたお肉や魚は、既に溶けかけていた。

「どうして、後の事を考えないですぐそうなの?」

あたしは怪訝した。
「今から買いに行くぞ!」

あたしの問いかけに耳もかさず、彼はカバンを持って速攻、行く様子。
「待ってよ! とりあえず台所のものだけでも出してしまいたいし、今日買って今日届くわけじゃないんだから!」

あたしは少し怒って言った。
余りにも、即効過ぎる彼の行動にあたしは、そうそう早く対処できるだけの気力はない。

 

「じゃあ、良いよ。俺が一人で行くから」
そう始まったので、あたしは返事をしないでいると、彼は一人で出て行ってしまった。
本当に、一人で行ったのかな?と少し戸惑ったが、彼が自分で見て買って来るのであればあれはそれで良いと思い、あたしは台所のモノをダンボールから出していた。

彼は、一切スーパーなどのお惣菜などは口にしない。
ましてや、来たばかりなので出前と言っても、どこに何があるのか分からない。
その前に、溶けかかっているお肉などを、何とかしなければと、あたしの頭の中は、晩ご飯の事でいっぱいになっていた。

彼はお昼を食べない。
朝食べると、一切間食もしないので、その後の食事は晩ご飯のみとなる。
ちゃんと食べなければ、すぐ腸の状態が悪くなる。
お尻の感覚がないので、お腹の状態は悪くしたくない。
あたしはいつも、彼の身体を考えていた。
それは勿論、好きだったからだろうと思う。

付き合っているときも、結婚した時でさえあたしは、彼から愛されていると感じた事はなかった。
その分、あたしがいっぱい彼を愛すれば良いんだと自分を納得させていた。

退院して、裁判などの手続きや、刑事告訴などして、それから障害年金など、彼が退院してからしなければなら無い事が全て終わっての、これからが本当の確かな生活と、ばかりに思っていたのに、毎日のように彼から投げ付けられる暴言で、あたしは、

「もう用が済んだから、あたしは要らないってこと?用済みだからそんなに冷たいの?」と泣いていた。
 

好きだから、一緒にいたいから、こんな事があってもやっと思いで関東から彼のところに来たのに。
彼はやっと安心を感じて、あたしを愛してくれるとそう思っていたのに。

「ただ単に、一人になって寂しいから俺のところに来たんだろう」

と投げ付ける言葉だった。

少しして彼が帰ってきた。

「冷蔵庫あったぞ」

と言ってきた。
「決めて来たの?」

とあたしが聞くと、
「俺が勝手に決めたら、お前が後で何言うか分からないから買ってこないよ」

と言う。
「じゃあ、いつ頃届けてもらうとか聞いてきたの?」

と言うと、彼はその時、きっと気付いたんだろう。
ただ、単に一時の感情の勢いだけで行動した事を。


「お前が使うものに、俺が勝手に決めたら、文句言ってくるだろう」

散々、あたしには「決め付ける」と言っていた彼こそが、あたしに対して決め付けた言葉を発している事すら、自己愛の強い彼には理解不能なことなのだろうと、今なら思える。

結局は、夕方一緒に家電ショップへと行き、冷蔵庫を購入してきた。
明日には届くという事だった。
新しいマンションで、また新しい生活が始まる。
今度こそ、仲良くやっていきたい。

そう強く思っていたあたしだった。 

 

 

「あまり物を増やさないようにしようね」

引越しまでの1ヶ月で、モノなどそんなに増えるわけなどないのだが、あたしは彼の機嫌を取るように言っていた。

それでも、喧嘩はほぼ3日に1度のペースであった。
理由なんて殆どが「これ」と言うものがない。
あたしの言う言葉のあげ足を取っては、何かと難癖をつけてくる。
その彼の一言一言に、あたしは傷つき、拘り、言い合いになっていた。


「そんなに嫌なら、自分で住むところ探せよ」
「ここは俺の家なんだから」
喧嘩となり、あたしに言う言葉はいつも決まっていた。
「通帳と家のカギを置いていけよ」
そう言っては、あたしのお財布から入っているお札だけを抜き取る。
「俺は喧嘩するたびにいつも、自問自答してきた。まだこいつとやっていけるか?ってね」
彼の言葉全てに、あたしに対する愛情どころか思いやりの気持ちも感じられない。

選択権は常に彼だけにあるようだ。

しかし、あたしは別れる気はなかった。
あたし自身も、既に彼に対する愛情はなかったかもしれない。
しかし、これからがあたし達の生活のスタイルと言うものが決まってくるのだろうと思いたかったし、彼は一度決めたら、とことんやる人だと信じていたかったのもあった。

 

どんな気持ちにせよ、あたしとの結婚を望み、実行した事実を彼は後悔したとしても、貫き通して二人の家族となるのだろうとしていたのも確かだ。

12時までには、電気を消して布団に入ろうと言う約束を、あたしは守っていた。
あたしが布団に入ると彼もPCをやめて電気を消す。
不思議と、電気を消して暗くなった部屋に、彼の姿が消えると、あたしはとても眠くなる。
今まで寝つきが悪かったのだが、すぐにでも熟睡してしまいそうなほどの睡魔に襲われる。

暗闇の中で、彼が今日思いついたことなどを話し始める。
時には坦々と時には熱く語る事もある。
あたしは殆ど、最後までその彼の演説を聞く事は無く、眠りについてしまう。

 

彼との日、1日がクタクタだった。
精神的にあたしは疲れきっている事を自分で感じていた。

引越し先のマンションは、1DK。
今までは2LDKだったので、狭くはなるが、もともとリビング以外に使ってなかったので、不便さはないだろうと思っていた。

荷物だって本当に何もない
引越し屋さんに見積もりを頼むと3万と言う事。
この値段からしても、荷物の少なさが分かるだろう。

彼は最後に、PCをダイボールに大事に詰めた。
あたしのも「やってよ」と言うとやってくれた。

このマンションに住む時、車椅子用に、トイレに手すりを設置し、柱の角に、傷などを付けない様に、カードのL時の板が、貼り付けられていた。
それは、手で簡単に取り付けられるようにとの彼の注文だったらしい。
簡単に取り外しが出来るようにとはいえ、ちょっとした接触でも始めの頃は外れてしまっていたので、一度治してもらった事があった。

 

引越しの際は、それを全て取り外さなければならないため、彼が手で取っていると、突然、彼は怒り出したのだ。
両面テープで貼り付けられているのだが、彼が取り外した際に、柱の板も少し剥がれてしまった。

突然、彼が電話をかける。
何処にかけたかと言うと、入院していた病院の、このマンションも探したくれた、ソーシャルワーカーさんにだった。

「手でも取られるように」って頼んだのに、柱の木の表面まで剥がれたじゃないですか。話が違うんじゃないか」と、電話で言っている。

あたしはビックリした。
いったい自分の落ち度を誰のせいにしたいのだろうと、わけが分からない。
以前、付き合っていたバカ男が、待ち合わせで自分が来た時にあたしが居なかったら、1分も待つことなくパチンコ屋に入って、負けては「お前がすぐに来てなかったからだ」とアホな八つ当たりをしていた事があったが、彼はそれ以上のアホだと思った。

 

ただ、単に自分の取り方の下手さを、散々お世話になったソーシャルワーカーさんに、文句を言ったところで何になるのか、あたしにはまったく理解が出来ない。
それにそんな事を言われた方だって、何をして欲しいのかわからないだろう。
唖然としていると、散々(約30分)文句を言って気が済んだのか、電話を切ると、今度は不動産に電話をして、破損状況を説明していくらくらいかかるかを聞いていた。

 

黙っていれば分からないほどの剥がれなのにとあたしは思っていたが、何も言わなかった。
結局、その角の柱のはげ掛けた部分は8000円の修理となってしまった。
もう一つ、反対側のほうにも着いているカード板を見てみると、やはり剥がれそうでもあるが一部はしっかりと着いているようにも感じた。
あたしは、食器洗剤を少しそのスキマから流しいれると、何ってことなく綺麗にスッポリ剥がれたのだ。

彼がムキになる事はないのだ。
始めから、彼の剥がし方が下手だっただけの事。
彼にしてみると、そんなことすら自分の否にはしたくはないようだった。

 

「今度のマンションは俺の好きなように家具とかを揃えるからな」
それはまるで、今まではあたしの好みにでもしているかのように宣言していた彼だった。

彼の頭の中では、もう既に揃えたい家具などが思案されているらしく、
「色を統一したい」とかを言っていた。
好きにしてください…そんな気分だった。

もう既に、彼はあたしの意見を聞くのは、ただ単に反論したいだけの事なのか?
はたまた、後々に
「だから、あの時相談しただろう」と弁明をしたいからかと思えてしまうほどの、威嚇されているような発言にしかなかった。

福祉の方では、障害者は引越しなどをするたびに、少しでも不便なく生活が出来るように、援助が20万円分出る。
玄関口の段差をなくす台とか、お風呂の椅子、トイレの中の手すりなどにかかる費用が、自己負担500円か800円で設置できるようになっている。
その手続きも抜かりなく、彼はやっていた。

今までは、すぐ近くに格安スーパーがあったのだが、今度のマンションは駅のそばと言う事もあって、近くにスーパーがなかったので、お肉や魚などを買い込んで、冷凍保存の準備もしていた。

荷物はほぼOK状態。
後は、朝ごはんを食べての最後の荷物となるところまでやり遂げていた。


「明日、9時に引越し屋さんが来るから」
「うん」
「9時30分には不動産屋さんが来て、すぐ引渡しだから」
「うん」
「あっちのほうのガス屋も、もう午前中で予約入れてるから」
「うん」
彼のせっかちな性格は、こういうところの手早さが、あたしには少し安心だった。

離婚してから10数年。
あたしはまだ7歳と4歳の子供を引き取って、ずっと今まで何でも一人でやってきた。
いや、やらなければならなかった。
それが今では、彼がやってくれる。
それはあたしにとって安心の一つでもあったが、彼にしてみると

「お前は何もやらない」

になっていたのかもしれない。
 

しかし、あたしがやったところで文句が出るのだから、やりたくもなくなるのも確かだ。
最近は彼が文句を言うたびに、

「だって、言っても無駄でしょ?」

と言うと

「そうやって勝手に決め付けるなよ!」

と、この頃の彼はそんな言葉をあたしに良く言っていた。