“愛里跨(ありか)の恋愛スイッチ小説(柚子葉ちゃん編27)” | 愛里跨の恋愛スイッチ小説ブログ

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27、コンティニュアス




静かになった研修センターのフロアに甲高い声が響く。
当番の仕事を終えた柘榴さんは嬉しい出来事でもあったのか、
喜びを瞼に浮かべ荷物を抱えて階段を下りる。
そして玄関に向かう笹森くんを追いかけて声を掛けた。



柘榴 「おつー!レーヴ・ウインコール!」
由夢人「お、おい。会社ではその名前で呼ぶな」
柘榴 「いいじゃない。
   誰もいないし、もう仕事終わったんだし、
   『嫁』が『婿』の名前を呼んじゃダメなの?」
由夢人「そういうことじゃないだろ」
柘榴 「あのさ、この間言ってた海外ホラゲーなんだけど、
   “オルトラ オンライン”やっと手に入れたんだ」
由夢人「……」
柘榴 「オープニングトレーラー、一緒に観たじゃん。
   摘まれた赤いドラム缶の山を通り抜けると赤いドアの廃墟があるやつ。
   音楽も映像もすごいインパクトあったでしょ。
   レーヴも覚えてるよね。
   だから今夜さ、早速やらない?」
由夢人「はぁ。無理だよ」
柘榴 「えーっ!
   じゃあ、“SS 13eyes”でもいいよ。
   昨日はラグくてうまくプレイできなかったんだよね。
   それに最近、レーヴと一緒にプレイしてないし」
由夢人「僕は、いい。やらない」
柘榴 「なんでよ。釣れないの。
   ねえねえ、一緒にやろうよ。
   一時間でもいいからさ、久しぶりに楽しいと思うよ」
由夢人「だから僕は」
柘榴 「もしかして先約があるとか、
   それとも今夜はリアな用でダメってこと?」
由夢人「……」
柘榴 「あっ!そうだった。
   今日九時から13eyesの限定クエスト始まるんだ。
   もしかしてエントリーしてるとか。
   もしそうなら明日でもいいよ。
   それとも土日のほうがいいかな。
   たくさん時間取れるからぶっ通しプレイしてもいいし」
由夢人「僕。クランやめたんだ」
柘榴 「……えっ。い、つ」
由夢人「十九日」
柘榴 「十九日って……
   (柚子葉さんのお見舞いに行った日じゃん)」
由夢人「……」
柘榴 「なんで?
   なんでクランやめたこと私に言わないのよ」
由夢人「どうして、いちいち君に言わなきゃいけないんだ」
柘榴 「はっ。どうしてって、私がリーダーだからよ」
由夢人「……」
柘榴 「リーヴと私は仲間じゃん。
   仕事ではC班で、ゲームでもクランメンバーで、
   ゲーム内では私は、リーヴの『嫁』なんだよ」
由夢人「でもリアでは、僕は君の彼氏でも婿でもないよ」
柘榴 「……なんで。
   なんで急にそんなこと言うのよ。
   今までは普通にしてたじゃん」
由夢人「普通って……米山さんさ」
柘榴 「いつも通り、ザックでいいよ」
由夢人「米山さん。
   君は岡留さんと仲間で友達だよね。
   なのにどうして、そんなに普通で居られるの」
柘榴 「えっ。普通って」
由夢人「病院でもそうだったし。
   彼女は未だに研修にも来れないんだよ。
   大切な仲間で友人のはずだよね。
   その岡留さんが死にかけたんだよ。
   君はあの日も今も、普通にゲーム誘ってくるよね。
   もしかして君は、彼女との関係もゲーム感覚なの」
柘榴 「なに、それ……」
由夢人「研修初日の自己紹介で言ってた君の動機、
   『冥界に興味があって死を実感できる』からだったよね。
   君は彼女の痛々しい姿を見てもなんとも思わないの」
柘榴 「何とも思わないわけないじゃない。
   心配してるわよ。
   ただ、死を身近に感じるのは、寺の娘だから。
   他の人よりは人の死に慣れてるというか、
   そういう生い立ちも、自分で選んだわけじゃない。
   なのに……
   人の死に興味を抱くこととホラゲー好きってことが、
   柚子葉さんを心配してないっていう理由とどう結びつくのよ。
   どうしてクランをやめることと関係があるわけ?」
由夢人「君を理解できないからだよ、僕は。
   初めて会った時から」
柘榴 「初めて会った時からって今更……ひどい。
   じゃあなんで、一緒にゲームなんかしてんのよ。
   それに初めからそんな風に私を見てるなら、
   思わせぶりにSS内結婚なんかしなきゃよかったじゃない」
由夢人「同じC班になったからには、
   仕事上分かり合わなければいけないと思ったんだ。
   だから苦手なホラーゲームでも、
   一緒にゲームプレイすれば、
   少しは君の人間性も理解できると思った」
柘榴 「ホラゲーが苦手なんて知らなかった。
   無理してたってこと」
由夢人「そう、だね」
柘榴 「なんで言ってくれないの。  
   そんな気持ちでいるならもっと早くに言ってほしかった」
由夢人「それは、ごめん」
柘榴 「もしかして、リーヴ。
   柚子葉さんが好きなの?」
由夢人「ち、違うよ!」
柘榴 「柚子葉さんには久々里さんが居るんだよ。
   病室で見たでしょ。
   あの二人は愛し合ってて求め合ってて、
   二人の間には誰も入れないんだから」
由夢人「そんなこと分かってるよ。
   僕が言っているのはそんなんじゃない」
柘榴 「じゃあ何」
由夢人「根本的に、僕と君では嚙み合ないんだよ。
   好みや価値観、置かれた立場や人との接し方。
   誰にも理解されない恐怖や心に抱えてる悲しみ、もね」
柘榴 「全否定なんだ」
由夢人「月末には僕らの研修は終わって、修了試験に合格したら、
   配属先も決まってみんなバラバラになる。
   これが潮時と思うんだ」
柘榴 「本当、呆れる。
   一方的だよね。
   自分のいいたいことだけ言って私に反論する余地もない」
由夢人「反論って。もう無理だろ」
柘榴 「……」
由夢人「これが僕の本心だから。
   これからは同期社員ってことでよろしく」
柘榴 「……わかった。笹森くん」
由夢人「本当にごめん。
   じゃあ。お疲れ様」
柘榴 「お疲れ、様……」



降って湧いたような関係の幕切れ。
柘榴さんは抱えていたバッグを力なく落とす。
現実感もないまま、ぽたぽたと零れ落ちる涙のままで、
視界から無くなるまで、去りゆく愛しい背中を見つめていた。
私が萄真さんに引っ越しの返事をした日、
柘榴さんはたった一人の大切な友、仲間、
そして二次元世界のパートナーを失ったのだった。







10月30日、夕方。
私は引っ越しの荷物作りに追われていた。
明日、萄真さんの家へ引っ越すためだ。
柑太さんと工房見学をした日、
萄真さんの巧みな話術や何の躊躇いもなく見せる魅力的な表情。
そして何より『目は口程に物を言う』と申すくらいに、
彼の意志の強さに吸い込まれそうになり目力に圧されたのだ。
不安な気持ちはあるけれど、だからと言って出した答えに後悔はない。
それに、狩野さんのように私もいつか萄真さんに恩返しをしようと思った。
具体的に何にするかは決まっていないけど、
一緒に居る中で彼が喜ぶことをしてあげたい。
今はそう素直に考えている。
そして私と同じ境遇の人達の助けになれたらなお、嬉しい。



壁の時計が六時半を示したとき、玄関チャイムの音がする。
「はーい」と返事をしてゆっくりドアを開けると、
そこに立っていたのはコンビニ袋を持った杏樹さんだった。
私の体調を気にして研修帰りに寄ってくれたのだ。
お持たせの缶ジュースを飲み、
二人で荷造りをしながら、お互いの近況報告をする。
彼女は私の居ないC班のことや今後の日程など話してくれた。
そしてある事実も。





杏樹 「思ったほど段ボール要らなかったね」
柚子葉「うん。これなら久々里さんのトラックでもいけそうかな。
   主な家具はそのローチェストとカラーボックス大の食器棚、
   あとは電化製品だけだしね。
   ずっとここに住むつもりじゃなかったから、
   余計なものは買わないようにしてたの」
杏樹 「そっか。
   長年住んでると知らない間に物って溜まるんだよね。
   うちの両親が家を建てた時も、前の家から引っ越しするのに、
   大型トラックと中型トラックの二台で運んだんだよ。
   一年に一トンくらい物が増えてるんじゃないかって父が激怒してたわ。
   『引っ越し代も馬鹿にならないんだぞ!』って言ってね」
柚子葉「そうなんだ」
杏樹 「しかし。
   柚子葉さん、よく決断したね。
   久々里さんのお家への引っ越し」
柚子葉「う、うん。
   直前までずっと悩んでたんだ。
   始めは社宅に引っ越しするとまで伝えたんだけど、 
   萄真さんに押し切られちゃったみたいになって」
杏樹 「そりゃあ、あの目力で見つめられたら無理よ。
   私でもOKしちゃう。
   と言うよりも、私だったら迷わず『一緒に住む』って答える」
柚子葉「そう。柑太さんから言われたらやっぱりそうする?」
杏樹 「決まってるでしょ。即答よ」
柚子葉「愚問でした」
杏樹 「いいわねぇ。
   愛する人と同棲かぁ」
柚子葉「ど、同棲なんて」
杏樹 「私も早くそうなりたいけどね。
   まだまだ遠い未来だと思うわ」
柚子葉「杏樹さん」
杏樹 「あぁ、勘違いしないでよ。
   柚子葉さんを責めてるんじゃないからね。
   これは私と増川さんの問題」
柚子葉「う、うん」
杏樹 「人を好きになるって難しいし不安だよね」
柚子葉「うん」
杏樹 「でもすごい神秘的で魅力的で、すごく温かいよね」
柚子葉「うん。そうだね」
杏樹 「私ね、男の人に夢中になったのって、
   増川さんが初めてなんだ。
   自分の仕事も住まいも変えちゃって、
   何の躊躇いもなく不安もなく、心のままに一直線に飛び込むのって」
柚子葉「杏樹さん」
杏樹 「キッカケをくれたのはおじいちゃんだったけど、
   でもトリガーになってくれたのは増川さんかな」
柚子葉「そっか」




私もそうだ。
キッカケをくれたのは柑太さんだったけど、
萄真さんがたくさんトリガーを引いてくれた。
母との確執。
自分の中にできた分厚い殻からの脱出。
そして真情と愛情の発露。


 


 


柚子葉「研修のほうは順調?
   夏梅社長は相変わらず?」
杏樹 「うん。研修は順調だし夏梅社長のコーチング力は見事よ。
   分かりやすいし、これなら現場でも安心してやっていけそう」
柚子葉「そっか。私も杏樹さんやみんなと研修したかったな」
杏樹 「そう嘆きますな。
   私は柚子葉さんが羨ましいけどね、ってごめん」
柚子葉「ううん。
   柑太さんを独り占めしてるみたいで、こっちこそごめんね」
杏樹 「それは社長命令なんだからいいの。
   それよりも増川さんが通常通り研修していたら、
   至らない心配しなくちゃいけないもん」
柚子葉「至らない心配?」
杏樹 「いつにも増して栗田女史の風当たりが酷くて参ってる」
柚子葉「あぁ。柑太さんがセンターに居ないからか」
杏樹 「そう。
   勿論、社長から理由も聞かされてるだろうから、
   彼女も事情は知ってるだろうけどね。
   それに最近知ったんだけどさ」
柚子葉「ん?」
杏樹 「栗田女史は夏梅社長の姪らしいよ」
柚子葉「えっ」
杏樹 「社長が彼女を入社させて、増川さんと合わせて、
   それが付き合うキッカケになったらしいの」
柚子葉「へえー。
   そ、そうなんだ。
   それは初耳だね」
杏樹 「うん。案外、この会社って身内で固まってたりしてね。
   それともう一つ、気になることがあってさ」
柚子葉「ん、何?
   明日の修了試験のこととか」
杏樹 「それもあるんだけど、実はさ」
柚子葉「ん?」


杏樹さんは少し躊躇い気味に口ごもる。
その表情は憂わしげだ。



杏樹 「柘榴さんが無断欠勤してるの」
柚子葉「えっ。いつから?」
杏樹 「昨日と一昨日の二日間」
柚子葉「二日間……
   お見舞いに来てくれた時は、普段通りだったのに。
   体調悪いのかな」
杏樹 「私もそうかもと思ったんだけど、無断欠勤となるとね。
   連絡してみたけど、携帯切ってるみたいで。
   それで明日も出勤しなかったら、彼女は解雇らしい」
柚子葉「そんな……」
杏樹 「あの子らしくないなと思ってね。
   笹森くんにも聞いてみたのよ。
   あの二人、プライベートでも仲良しだし、
   柘榴さんに聞いた話だとゲーム内では夫婦らしいから」
柚子葉「二人がゲーム内の夫婦?
   そんなのあるんだね」
杏樹 「うん、あるらしいよ。
   でも、最近一緒にゲームもしてないから知らないって。
   それで増川さんに電話して聞いてみたんだけど、教えてくれなかった。
   試験は明日予定通りにあるとだけ言われたわ」
柚子葉「そう」
杏樹 「なんとなく知ってるように感じたけどね」
柚子葉「柑太さんは上司だから、事情は知ってるかもね。
   柘榴さんが心配だよ」 
杏樹 「そうだよね。
   もう一度電話してみようか」
柚子葉「うん」



私と杏樹さんはスマホを手に取り、代わる代わる柘榴さんに連絡してみた。
けれど何度か掛けても聞こえてくる言葉は、
「ただいま電話に出ることができません。
暫く経ってからおかけ直しください。
ご利用ありがとうございました」というメッセージ。
一難去ってまた一難。
絶え間なく動く現状に心揺さぶられるけど、
今はただ柘榴さんの無事を祈るだけだった。




ko-hi-



そしてその頃……
萄真さんは部屋の片づけを終えて、
胡坐をかいてコーヒーを飲んでいた。
宮棚つきのセミダブルベッドと、
北欧スタイルのビンテージ調のローテーブルが置かれた八畳の洋室。
彼はシーチングライトの灯りを少し落として微笑む。


萄真 「柚子葉。ここが君の部屋だよ。
   いきなり寝室が一緒っていうのは抵抗あるだろうから。
   ふっ。ここは紳士的にいくよ。
   喜んでくれるといいんだが」


萄真さんは思い出が詰まったアルバムを、
一冊ずつゆっくり段ボールに入れて蓋をする。
その顔はとてもスッキリしているように見える。
ローテーブルの上のスマホを取ろうとしたとき、
バイブ音と共に電話が鳴った。
着信は兄、夏生さんからだった。



萄真 「もしもし、兄貴。
   こんな時間に電話なんて珍しいね」
夏生 『萄真、今すぐうちに来れるか』
萄真 「いいけど、どうした」
夏生 『柚子葉さんの母親が来た』
萄真 「は?それで相手の要求は。
   相手は一人か」
夏生 『ああ、母親だけだ。
   おまえと柚子葉さんを出せと言ってる。
   娘と会えないなら慰謝料を払えと』    
萄真 「くそっ。彼女は呼べない」
夏生 『それは私も分かってる。
   だが、おまえだけは来てほしい。
   今、実蕗が相手をしているが、
   彼女は気が強いから治めるどころか荒れててね』
萄真 「ふっ。そうだろうな。
   火に油を注いでる」
夏生 『おまえに連絡する前に、
   澤田弁護士に事情を話したら彼もこちらへ来るそうだ。
   必要なら警察へ連絡すると言ってたが、
   私としてはなるべく事を荒立たせずに、
   穏便に済ませたいんでね。
   おまえが来てくれたら私も話しを進めやすい』
萄真 「兄貴。
   最初に断っておくが、俺がそっちに行ったら、
   事が今以上に荒立つのを覚悟しておいてくれ」
夏生 『と、萄真』
萄真 「15分で行く」
夏生 『気をつけて来いよ、萄真』
萄真 「ああ。すぐ行く」




(続く)


この物語はフィクションです。


 

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