“愛里跨(ありか)の恋愛スイッチ小説(美來ちゃん編26)” | 愛里跨の恋愛スイッチ小説ブログ

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星光、項垂れる1

 

26、アイデンティティ クライシス

 

 

フラッシュバック。

それはいきなりやってきた。

赤いドレスの、女性……

あれは確か私の誕生日。
その日の夜、秋真さんと私の誕生日を祝う約束をしていた。

 

 

 

〈美來の回想シーン〉

 

夕暮れ時、出かける準備をしていた時だった。
ある一本の電話で呼び出され、私はいつもより2時間も早く家を出る。
外に出るとあの事故の日と同じように篠突く豪雨だった。
タクシーで25分、濡れた街を走り、
到着して財布を出すと運転手から「支払い済みです」と言われる。
傘を差しアスファルトを激しく叩きつけて飛び跳ねる雨粒を、
かき分けるように踏みしめて歩いた。
ラグジュアリーな高級ホテルのエントランスにたどり着くと、
二人のドアマンに「いらっしゃいませ」と声を掛けられる。
見回しながらロビーへ入った私の背後から呼び止める声が聞こえ、
振り返ると意味深な微笑みを浮かべた日菜乃さんが立っていた。

 

 

日菜乃「美來さん、こっち」
美來 「あっ……粟田さん。
   お待たせしてすみません」
日菜乃「いいのよ。
   それに粟田さんなんて堅苦しい。
   私のことは日菜乃でいいわよ」
美來 「は、はい……日菜乃さん」
日菜乃「無理言って急に呼び出してごめんなさいね。
   すごい雨だったから大変だったでしょ?」
美來 「い、いえ」
日菜乃「じゃあ、行きましょうか」
美來 「あ、あの。行くって何処へですか?」
日菜乃「貴女が手を叩いて喜ぶ場所。
   とても興味のある場所よ」
美來 「はぁ……」


日菜乃さんは優しい声で話しかけ、
私の手を取るとエレベーターホールへ歩き出す。
しかし私は、今までの対応と明らかに違う彼女に困惑し、
理由のない違和感を感じてその場に立ち止まった。

 

 

日菜乃「どうしたの?
   あっ。そっか。すごい雨で濡れたから寒いわよね。
   それとも何処か具合でも悪い?」
美來 「い、いえ。そういうことではないんです」
日菜乃「ん?……いいのよ。遠慮なく何でも言ってよ」
美來 「日菜乃さんは今まで、私を嫌ってると思っていました。
   だから、急にこんな優しくされると」
日菜乃「戸惑う?」
美來 「はい。貴女は有名な女優さんなわけですから、
   こんな高級なホテルに一緒に居るだけで、緊張もします」
日菜乃「そりゃあそうよね。
   ごめんなさい。
   私ったら何の説明もしないで、一人先走っちゃって」
美來 「い、いえ」
日菜乃「なのね。
   これは“今までの罪滅ぼし”というか、
   秋真とのことで貴女に散々嫌な思いをさせちゃったでしょ?
   それで申し訳ないなと思ってね」
美來 「申し訳ない……」
日菜乃「確かに秋真は私の元カレで、同じ事務所の仲間として付き合ってる。
   今でも大好きで大切な人だから、貴女と付き合ってるって知った時は、
   正直嫉妬心も芽生えたのは本当よ」
美來 「……」
日菜乃「でもね、今は違うの。
   秋真の大切な人は私にとっても大切な人だって思えてね。
   だから貴女と秋真の付き合いを少しでも応援したいのよ」
美來 「えっ」
日菜乃「私ってね、こう見えても恋は奥手で甘えん坊で、
   好きな人とはずっと寄り添っていたいって思う人なのね」
美來 「はぁ……」
日菜乃「だから仕事でもプライベートでも、彼とは常に一緒に居たかったんだけど、
   秋真は公私混同するのをとても嫌う人なの。
   だから付き合っている時もいつも喧嘩してたし、
   現場でも『俺にくっつくな』ってよく叱られたわ。
   でも貴女は立場的に彼と一緒に居たくても居られないでしょ?
   だから秋真のドラマの撮影現場にサプライズでご招待しようと思ってね」
美來 「えっ!?……秋真さんの撮影現場、ですか」
日菜乃「そうよ。部外者は事務所の許可がないと入れないんだけど、
   今日は特別に私が許可を取っておいたの。
   だから遠慮なく、秋真の真剣でカッコイイ姿を見学していってよ」
美來 「日菜乃さん……本当にいいんですか?
   一般人の私がお邪魔しても」
日菜乃「ええ、勿論」
美來 「あぁ……ありがとうございます。
   (日菜乃さんって、本当は優しくていい人だったんだ。
   こんな女性だからきっと、秋真も好きになったんだろうな)」
日菜乃「ほらほら。こんなところでもたついてたら、
   すごくいいシーン見逃しちゃうよ。
   急いで行きましょ」
美來 「はい!」

 

 

新宿

 

日菜乃さんに連れられてエレベーターで最上階まで上がり、
降りると静かな廊下を歩いて、いちばん奥の部屋へと向かう。
興奮とあまりの嬉しさに鼻の奥がツーンとして、
今にも感泣しそうになるのを胸に両手を当ててぐっと堪えた。
そして部屋の前にたどり着くと、彼女は持っていたカードキーをドアに差し込んだ。
静かにドアを開けて中へ入って驚いた。
そこはまるで海外のホテルのように部屋が2つあり、
大きなソファのある部屋と奥にはベッドルームがあるらしい。
すると急に奥の部屋から秋真さんの荒らげる声が聞こえ、
日菜乃さんは振り返り「しーっ」と言って人差し指を口の前に立てたのだ。
私は息を飲んだ。
二人して恐る恐る覗き込むと、
少し開いたドアから隙間から秋真さんと女性の姿はしっかりと見えた。
一生忘れられないインパクトのある光景が眼前に飛び込んでくる。
そこには赤いドレスを脱ぎ、秋真さんの前に立つ若い女性が立っていた。
引きちぎれた秋真さんのの白いワイシャツ。
その間から彼のたくましい肌が覗いている。
私は無意識に日菜乃さんの腕を掴んでいた。

 

 

日菜乃「美來さん、大丈夫?」
美來 「赤いドレス……
   (ドラマの撮影なのにスタッフさんが一人もいない。
   どうして……誰も居ない部屋で秋真さんと裸の女性が居るの?)
   これは……お芝居ですよね」
日菜乃「あの子は伊藤詩音(いとうしおん)と言って、事務所の後輩の新人女優。
   秋真とドラマの共演が決まってからいつも一緒に居るのよね。
   毎日リハや稽古もして今じゃ役になりきってる」
美來 「な……なんですか。こ、これ」
日菜乃「ん?ドラマの撮影というより、
   ドラマの為の予行練習?……んなわけないわよね。
   スタッフも撮影機材も無いホテルの一室に、

   どうして二人きりで居るのか?って疑問でしょう。
   しかも裸のまま」
美來 「……」
日菜乃「というか、貴女は聞いたこと無い?
   映画やドラマで共演した者同士が実際に惹かれ合うって。
   私もその一人なんだけど、中には結婚までいっちゃうカップルがいたりね。
   だからこれは秋真と詩音がリアルに愛を確かめあってるシーンってこと。
   貴女の目を盗んで、毎日ね」
美來 「毎日……そ、そんな」
日菜乃「この部屋は先日までドラマの撮影で使われてたの。
   それが明日、元のホテルの部屋に戻すのよ。
   だからきっと二人きりで愛を確かめ合って、
   思い出作りをしてるんだと思うわ」
美來 「日菜乃さんは、これを見せる為に私を誘ったんですか」
日菜乃「そうよ。
   私の二の舞になる前に、真実を知っててほしかったのよ。
   バカ正直に秋真を信じてる貴女を見てられないから。
   その二つの目でしっかり焼き付けなさい。
   これが秋真の本性で彼の隠してきた真実なの。
   それでも美來さんは彼を信じて愛していける?」
美來 「私は……私には、何も分かりません」

 

 

雅、危機一髪

 

 

上半身裸の女性は床の落ちた赤いドレスをゆっくり拾い、
手慣れたように身体に通すと背中のファスナーを上げる。
そして秋真さんに甘えて抱きつき『またね』と呟くと、
私たちの存在に気がついたのか、しっかりとこちらを直視して微笑んだ。
その瞬間、目の前が真っ暗になる。
物音をたてず後ずさりしながら出口まで下がると、
私は逃げ出すようにその場から立ち去ったのだ。
まともに歩いているのに足はもつれる。
エレベーターへ続く廊下のじゅうたんを見つめているのに、
二人の抱き合う光景が目に焼き付いて離れない。
とにかく倒れないように廊下の壁に縋り伝いながら非常口まで歩き、       
重いドアを力任せに押して開けて冷たい階段へ出た。
容赦なく溢れる涙が行く手を阻み視界を歪ませる。
あまりのショックに意識朦朧とした私は、
濡れた階段に足を踏み入れた途端踏み外し、
地の果てへと転落するように転げ落ちていったのだった。

 

 

点滴

 


目を開けるとオフホワイト色の天井が広がり、
視線をゆっくり横にやると優しい目をした海棠さんがベッド脇に腰掛けていた。
その後ろにはハンカチを握りしめて心配そうに覗き込む千早さんも居る。
そこは救急外来の処置室で、私の左腕には点滴の管が刺さっていた。

 

 

美來「(私、お店で倒れちゃったんだ)」
千早「美來さん!あぁ、良かった。目をさましてくれて」
美來「千早さん」
海棠「大丈夫か?」
美來「……海棠、さん?どうしてここに」
海棠「野竹さんから連絡をもらったんだ。
  君が倒れたって聞いたから飛んできた」
千早「美來さん、ごめんなさいね。
  本当は秋、あっ。
  彼に、連絡しようと思ったんだけど、
  連絡先が分からなくてお店に電話したのよ」
美來「ごめんなさい。
  お二人にご迷惑お掛けしてしまって」
海棠「そんなことは気にしなくていい」
美來「はい……」
海棠「野竹さん、お子さん達が待ってるでしょう。
  後のことは俺が引き継ぎますからいいですよ」
千早「ありがとうございます。
  それでは宜しくお願いします」
海棠「玄関まで一緒に行きますよ。
  もう遅いからタクシーを呼びましょうね」
千早「はい。助かります。
  美來さん、また連絡するから。
  身体ムリしないでお大事にね」
美來「千早さん、本当にありがとうございます」


千早さんはギュッと手を握って涙目で私を見つめると、
挨拶をして帰っていった。
私は重たい身体を起こし、ベッドにゆっくりと腰掛ける。
そして傍にいた看護師から点滴を抜いてもらい、
診てくれた医師から説明を受けた。
暫くして帰り支度をしていると、
千早さんを玄関まで送った海棠さんが戻ってくる。
彼は医師と看護師に挨拶すると私のバッグを持ち、
エスコートするように私の肩に手を添えた。

 

海棠「車を正面玄関前の駐車場に移動させてある。
  そこまでは歩けるか?」
美來「はい、大丈夫です。
  ご心配とご迷惑をおかけしてすみません。
  またも千早さんにも申し訳ないことしちゃった」
海棠「そうだな。
  でも。野竹さん、いい人じゃないか。
  葦葉が目をさますまで、ずっと気にかけてたぞ」
美來「そうですか……彼女はとてもいい人です」
海棠「大事にしろよ。
  彼女の事も、自分の事も」
美來「……はい」
海棠「送るのは“ア・レーズ”でいいのか?」
美來「いえ……“望月アパート”にお願いします」
海棠「……分かった」

 


海棠さんの車の助手席に乗ると安心したからか、急に辛さが込み上げてくる。
私は悟られないように零れそうになる涙を必死で堪え、
静かに左手で拭おうとした。
しかし海棠さんは冷たくなった私の右手をぐっと握って覗き込んだのだ。
不意を突かれたのと恥ずかしさで、
急に息苦しくなるほどの動悸に襲われた私は、
誤魔化しながら必死で言葉を探した。

 

 

美來「(海棠さん!?顔近いって!)
  か、海棠さん、わ、私、その……」
海棠「葦葉。何があった」
美來「えっ」
海棠「“詩音”って誰だ。
  赤いドレスの女性がどうのって、かなりうなされていたようだが」
美來「あぁ……それは」
海棠「君が倒れたことと、何か関係があるのか?」
美來「それは……やっと思い出せたんです。
  私が記憶を無くした時のこと。
  忘れていた大事な記憶も、忘れたかった悲しい過去も」
海棠「そうか。あれだけ知りたがってたのにな。
  うなされながら泣くほど嫌な過去だったか」
美來「……はい。それが秋真さんと離れるキッカケで、
  私の、アイデンティティクライシスの始まりです」
海棠「……そうか」
美來「海棠さん」
海棠「ん?」
美來「私の家族は亡くなったのに、何故私だけがここに居るんでしょう」
海棠「葦葉?」
美來「あんな事があったのに何故私は懲りずに、
  彼と人生を歩もうとしているんでしょうね。
  私、これからどう生きていけばいいのか分からなくなってきました」
海棠「卯木秋真と、また何かあったか」
美來「いいえ。彼とは何も。
  秋真はいつも自信に満ちていて胸を張って生きてる。
  こんなちっぽけでどうしようもない私に、
  一緒に生きようって言ってくれて。
  どんなに手を伸ばしても届かない、
  夜空に輝く一等星のような人なのに、それなのに……」
海棠「葦葉。あんまり自分を卑下するんじゃない。
  俺にとって君は、とても有能な部下で、
  誰よりも頼りになる存在なんだぞ」
美來「海棠さん……教えてください。
  海棠さんはどうして裏切った彼女を許したんですか?
  どうやって自分を見失うことなく生きてきたんですか?」
海棠「俺は……あいつらを許してなんかいない」
美來「えっ」
海棠「自分を見失うことなんて数え切れないくらいあったさ。
  頭のなかで何度となくあいつらを切り刻み、
  何千回、いや、何万回もこの世から抹殺した。
  それでも俺は百姫を、憎みながら愛した。
  そして憎しみを、怒りを、悲しみを、
  自らの生きるための力に変えたんだ。
  ただそれだけだ」
美來「そんなのって、辛すぎます。
  悲しすぎます」
海棠「ふっ。確かにそうだな。
  葦葉。君も卯木秋真を本気で愛しているなら、
  憎みながら愛せばいいんじゃないか?」
美來「海棠さん……」

 

抑えきれなくなった感情が一気に溢れ出す。
忍び泣きが嗚咽に変わる。
肩を震わせながら涙を流す私を、
海棠さんは自分の胸に引き寄せ、慰めるように抱きしめた。
その広く暖かな胸に躊躇うことなく私は縋りついたのだった。

 

 

夜の運転

 

(続く)


この物語はフィクションです。
   

 

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