“愛里跨(ありか)の恋愛スイッチ小説(美來ちゃん編21)” | 愛里跨の恋愛スイッチ小説ブログ

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21、慰めの雨

 

 


海棠「あの事故を起こした張本人は、俺の恋敵で、
  “スフマトゥーラ”に務めてた俺の先輩だ」
美來「海棠さん……」


海棠さんは何かをかき消すように長く重い溜息を漏らし、
静かに目頭を押さえた。
放たれた現実は私の想像を遥かに超えていて、
泣けばいいのか慰めの言葉をかければ良いのか一瞬分からなくなる。
彼はすぐに優しい瞳で目を潤ませる私を見つめて、
再び穏やかに声を掛けた。

 

 

海棠「名前は高樹晴人(たかきはると)。
  同乗者は花園百姫(はなぞのゆき)」
美來「花園百姫さん……
  (これって。彼女は海棠さんを裏切って、
  高樹晴人さんと一緒に居たってこと?
  そして一緒に居る時に事故は起きた)」
海棠「知らなかったのか。
  それとも、知っていたけど記憶を無くしちまったか」
美來「……そうかもしれません。
  秋真さんからは、事故の加害者の話は何も聞いてません。
  それに瀬戸さんから聞くまで、
  海棠さんが事故の説明会に参加していたことも、知りませんでしたから」
海棠「そうだったのか。
  君が面接にやってきて、俺にカットしてもらったと言った時、
  俺のことも事故のことも知ってて来たんだと思っていた」
美來「そ、そんなこと……」 
海棠「多分だが、卯木秋真は高樹のことは知ってるだろう。
  君のために、敢えて言わなかったんじゃないかな」
美來「そうでしょうか」
海棠「ああ。
  高樹はもう“スフマトゥーラ”には居ないし、
  事故の後、刑事責任とやらで処罰もされてるはずだ。
  でも百姫はまだ店で働いてる」
美來「(そんな大変なことがあったのに働くなんて、
  本当にすごい人なのかもしれない。
  私ならきっと辞めてしまうだろうな)」
海棠「君は事故の事実を無かったことにして、
  百姫と同じ空間で仕事ができるのか?」
美來「それは、正直分かりません。
  でも今は、真相を知りたいとは思います」
海棠「それがどれほど残酷な事実でもか」
美來「はい。過去を思い出せるのであれば」
海棠「辛いだけの過去なら、いっそ忘れてしまったほうが楽なのに、
  君は何故知りたいと思う」
美來「過去があって今の自分があると思うからです。
  忌まわしい過去であっても、忘れたほうが幸せだとしても、
  そんな辛いの中でも大切な人達と繋がった真実があります。
  その中の一人に海棠さんも居るんです」
海棠「そうか」
美來「あの、海棠さんが東京のお店を辞めた理由って……
  もしかして高樹さんとの三角関係が原因なんですか?
  あっ、もし話したくなら無理に言わなくてもいいです」
海棠「話すのが嫌なら、始めから君に打ち明けてない」
美來「はい」
海棠「それが全てではないけど、
  大きな原因の一つであることは間違いないよ。
  俺を育てくれた尊敬する先輩が俺を裏切った挙句、
  無謀なことをして多くの人を傷つけたんだ。
  君や卯木秋真もね」
美來「海棠さんだって、同じように傷ついてます」
海棠「ふっ。そうだな……」
美來「海棠さんとそのお二人の間に何があったのか、
  私に教えて貰えませんか?」
海棠「ああ」

 

海棠さんは元カノ百姫さんとの付き合い、
そして事故前日の出来事から事故の一報が入るまでの経緯を話してくれた。
私は止めどなく流れる涙をハンドタオルで拭いながら、
取り乱すこともなく淡々と語る彼の言葉に耳を傾けた。

 

 

 

驚き

 

〈海棠の回想シーン〉

 

 

事故の前日。
店で接客中の海棠さんは、バックヤードから聞こえてくる声を聞く。
他のスタッフに作業を任せて覗き込むように中の様子を窺うと、
彼女だった百姫さんとスタッフの松永さんが言い争っていた。

 

 

松永「百姫さん、どうしてですか!?
  いきなり粟田日菜乃さんの担当から外れろなんて、
  そういうことはいつも事前にミーティングで報告があって」
百姫「高樹さんがそうしろって言うから」
松永「私は高樹ディレクターから何も聞いてません」
百姫「だから、高樹さんが私から伝えろって言ったの。
  今代弁したから」
松永「本当にそう言ったのなら、何故事前に指示がないんです。
  私の予定表には19時に彼女の予約が入ってます」
百姫「何故ね。
  担当が変わったのは、私の実力が貴女より勝ってるからじゃないの?」
松永「えっ」
百姫「それに、日菜乃さんから直接要望があったらしいわよ。
  貴女さ。この間彼女のカット、トチったでしょ」
松永「わ、私はトチってなんかいません」
海棠「おい。何を言い合いしてる。
  みっともない声がフロア中に聞こえてるんだぞ」
百姫「あーぁ。太勇には関係ないのに」
松永「海棠さんからも百姫さんに言って下さい。
  担当が変わる時は事前報告が基本なのに、
  いきなり担当変更なんて言われても納得できません」
海棠「百姫。一体どういうことだ」
百姫「だから、粟田日菜乃が松永さんから私に担当を変えるって言ったの。
  女優さんの気まぐれなのか、
  それとも松永さんが彼女を怒らせたのかは知らないけど、
  変わるのは上司の命令なのよ。
  ただ単に、白羽の矢が私に立っただけの話でしょ」
海棠「なんだって……
  松永。俺が事情を聞くから、俺の代わりに二番の接客頼む。 
  前処理は終わってるからな。
  ミドル部分は逆巻きでワインディングしてくれ。
  分からなかったら雄木さんに聞いて」
松永「は、はい」

 

 

海棠さんは松永さんに作業を託し、百姫さんの腕をぐっと掴んだ。
そして無言のまま百姫さんを引っ張るように裏口から外へ連れ出した。
彼女は怒りを露わにし、力任せに海棠さんの手を引き離す。


百姫「太勇、痛い!放してったら!」
海棠「百姫。この数ヶ月、コソコソと何を勝手に遣ってんだ!
  無断で店を休むわ、出てきたと思ったら松永にケンカ売るわ」
百姫「ケンカを売るなんて人聞き悪いこと言わないでよ。
  休みの件も粟田日菜乃の担当になったのも、全部高樹さんの指示なのよ。
  上司の指示に従って動いてるだけなのに、
  何故私が太勇に文句を言われるの!」
海棠「高樹さんがお前だけにそんなこと言うか」
百姫「そういうこともあるわよ。
  ディレクターは私の腕を誰よりも認めてくれてるからね」
海棠「腕ね。あの人はそんな特別扱いをする人じゃない」
百姫「太勇ったら、妬いてるの?(笑)」
海棠「俺はマジに話してんだ!
  大事な仕事の話してる時に笑い事じゃねえだろ」
百姫「仕事の話だけじゃなくて、
  太勇は昨日の夜、私が誰と居たのかを聞きたいんじゃないの?」
海棠「はぁ?なんだ。自分から言い出すってことは、
  何か俺に言いたいことがあるってことだよな。
  他に好きなやつでもできたか。
  この一週間アパートにも戻ってこないよな。
  この際だ。はっきり言えよ」
百姫「そうね。だったらこちらもこの際だから言わせてもらうわよ。
  太勇って本当にお固くて面白くない人だから、
  この一週間は私を楽しませてくれる頼もしい男性と一緒に居たのよ」
海棠「……」
百姫「何なの?
  自分から言えって言っといて、正直に話したら黙っちゃって。
  やっぱりショックだった?」
海棠「ショック?はっ。ショックなのは自分の馬鹿さにだ。
  こんな女と何年も付き合って真剣に結婚を考えてたなんてな」
百姫「結婚?へー。本当に考えてくれたんだ。
  太勇の人生に“結婚”という文字はないと思ってたわ」
海棠「誰だ、そいつ。
  俺の知ってる奴か」
百姫「ええ、そうね。
  よく知ってる人で、イケメンで貴方よりもお金も地位のある人よ」
海棠「まさか……お前、高樹さんと」
百姫「そうよ。私、高樹さんと付き合ってるの。
  もう3ヶ月になるかなぁ。
  太勇から出て行けってアパートを追い出された日に、
  偶然彼が車で通りかかって拾ってくれちゃってさ」
海棠「お前……」  
百姫「あーっ。太勇のせいで気分が悪くなってきた。
  私、今から高樹さんのマンションに帰る」
海棠「はぁ!?さっきから何勝手なことばかり言ってんだ!」
百姫「きゃっ!太勇、痛い!」

 

 

ずっと我慢していたのか、
彼の心の中で何かが崩れ一気に溢れ出す。
海棠さんは百姫さんの両肩をぐっと掴んで思いきり店の壁に押し付けた。
そこへ裏の駐車場に車を停めて歩いてくる一人のお客が通りかかる。
そして二人に気がつくとすぐに声を掛けてきた。
その声を聞いて、海棠さんは百姫さんを開放する。

 

秋真「おいおい。
  いくら店の裏だからって、客の前で掴み合いのケンカか?」
百姫「あっ。卯木秋真さん……」
秋真「大の男がか弱い女を壁に押さえつけて。
  内情の知らない俺が見てても、
  弱い者いじめのパワハラに見えるんだけどな」
海棠「卯木さん、貴方には関係のないことです」
秋真「関係ない?いや、それは違うな。
  大いに関係ありかもしれない。
  まぁ、今日の予約の担当が君らでなければ無関係だけど、
  俺は弱い者いじめを見て見ぬ振りなんてできないんでね」
海棠「……」
百姫「あの、卯木さんの担当者は」
秋真「あぁ。桐生智輝からの紹介で、
  名前は確か……高樹晴人さんだったか」
海棠「(こいつの担当は、ずっと恭介だっただろ)
  貴方の担当は大花ですよね。
  どうして急に高樹なんです」
百姫「あの、卯木さん。
  高木は今日明日と不在なんです」
秋真「そう。それはおかしいな。
  マネージャーが昨日予約を入れてるはずなんだが」
百姫「お急ぎでしたら他の者が店におりますから、
  どうぞ中へお入りください」
秋真「君こそ、先に中に入ったら?」
百姫「えっ」
秋真「俺、この人と少し話があるんだ。
  えっと、あんた名前はなんて言ったっけな」
海棠「スタイリストの海棠太勇です」
秋真「そうそう、思い出した。
  店長の海棠さんだったな」
海棠「百姫、中に入ってろ」
百姫「う、うん」

 

 

百姫さんは二人に頭を下げて、裏口から店に戻っていった。
海棠さんは睨みを利かせて相手の出方を静観する。
そして秋真さんも暫く黙ったまま彼を見ていたけれど、
ふっと鼻で笑って再度煽るように話しだした。

 

秋真「どんなに腹が立っても、女に手を出す奴は最低だな」
海棠「貴方に言われたくないです」
秋真「は?」
海棠「栗田さんからご事情を色々聞いてますからね」
秋真「あのお喋りが」
海棠「それで。俺にお話とは何ですか」
秋真「高木晴人って人、どんな腕してんの」
海棠「うちの店ではトップスタイリストです。
  桐生さんから聞いてないんですか」
秋真「あいつから聞いたのは名前だけだからな。
  高樹さんが居ないんじゃ仕方がない。
  だったら、今日は海棠さんにお願いしようか」
海棠「お断りします」
秋真「へー。客の申し出を断るんだな」
海棠「貴方がお客だから断るんじゃありません。
  同期のお客を取りたくないだけです」
秋真「そんな学生時代の運動部張りの考え方じゃ、
  すぐに他の奴らに先を越されるな。
  下手すれば大事なものまで奪われちまうぞ」
海棠「……」
秋真「可哀想だと仏心を出して同情なんかしてたら、
  あんたを蹴落とそうとする人間がこの世にはごまんと居るんだ」
海棠「貴方の言うとおりかもしれない。
  でも、他の奴らがどうであれ、
  俺は人のものを平気で奪うような人間になりたくない。  
  ただそれだけだ」
秋真「そうか」
海棠「ああ。卯木秋真さん。
  貴方のスタイリングはいつも通り、大花恭介が担当いたしますから、
  俺に話がないならサロンへどうぞ」
秋真「海棠太勇さん。
  なんだか、あんたは俺と同じニオイがする。
  また機会があったらお手合わせ願おうか」
海棠「はい。喜んで受けてたちます」

 

秋真さんは右手でピストルを作ると、
胸を張り立っている海棠さんに指先を向けて撃つ真似をした。
それでも海棠さんの目は反抗的な鋭さで、
ウインクして店の玄関へ向かって歩いていく彼の後ろ姿を直視する。
それが海棠さんと秋真さんの初めての会話だった。

 

 

落胆

 

その日の深夜。
海棠さんは高樹さんに呼び出されサロンに出向く。
その内容は彼が予想していた通り、
百姫さんと別れて欲しいとのこと。
そしてある一言が海棠さんの神経を逆なでする。

 

海棠「もしかして俺をナメてます?」
高樹「いや。真剣に男同士の話をしてるだけだ。
  今日、百姫に手を上げたんだって」
海棠「そんなことするわけないでしょう」
高樹「彼女はそう言ってる。
  店の裏で暴力を振るわれたってね。
  お前らはずっと上手くいってなかったって聞いてたが、
  暴力となると黙ってられなくてな。
  しかも仕事中に」
海棠「(卯木秋真と同じこと言いやがって)
  あいつは仕事を無断欠勤した上に、
  松永のお得意さんにまで手を出そうとしたんです。
  好き勝手な事して店の秩序を乱したんだ。
  叱って当たり前でしょう」
高樹「それはそれ。これはこれだ。
  松永の件と百姫の話を混同するな」
海棠「貴方も話をすり替えて自分のやらかしたことを正当化するなよ。
  人の女に手を出しといてな」
高樹「可愛い後輩の女に手を出すつもりはなかったが、
  彼女が悩んでる姿を見てると抑えがきかなくなった」
海棠「……」
高樹「さっきも言ったが、太勇が百姫を諦めてくれるなら、
  オーナーが話していたのれん分けの話し、お前に譲るつもりだ」
海棠「はぁ?」
高樹「お前の腕ならもう十分、一人で遣っていけるからな。
  いい話だと思うが?」
海棠「ふっ。やっぱ、俺をナメてますよね。
  あんたに譲ってもらった店なんて、こっちから願い下げですよ。
  何なら、その話と百姫に熨斗つけてくれてやりますから、
  二人とも俺の前から消えてくれ。
  話は終わりました。失礼します」
高樹「おい、太勇!」


あまりに身勝手な高樹さんの言い分。
海棠さんは燃え上がるような怒りを二つの握り拳に込めてぐっと抑え、
頭を下げると裏口から外へ出ていった。
その場から早く立ち去りたくて、
足早に駐車場へ向かうも何故か思うように進めない。
行き場のない腹立たしさが彼の全身に襲いかかり平衡感覚を奪う。
更に追い打ちをかけて、突然大きな粒が黒い空から落ちてきた。
雨は悪夢を押し流すほど凄まじく降り注ぎ、
彼の愛と怒りの炎を沈め、慰めるように全身を包んでいたのだった。
  


そして翌日の夕方。
あの恐ろしい運命の日。
サロンに居た海棠さんに一本の電話が入る。
それは百姫さんが収容された病院からで、
彼女は輸血が必要なくらい重篤な事態だと知らされる。
受話器を置いた海棠さんは、静かにスタイリングスペースに戻り、
カットチェアに掛けて待っていた女性客に優しく微笑みかけた。

 

海棠「お待たせ致しました。
  今日はどんなふうにカットしましょうか」

 

 

安堵の顔


(続く)

 


この物語はフィクションです。

 

 


 

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