詩集「天のたて琴」

のろさかん 詩集

ジュニア・ポエム双書130

福島一二三 絵

グローバル メディア

1998(平成10).8.26初版

 

 

 

・そらまめ

 

 さやのなかに

 そらを とじこめて

 チャックをひいた

 

 まめのなかで

 うれていく そら

 

 さやを ひらくと

 ぷちん

 なつが とびだした

 

 

・なすび

 

 なすびばたけに

 なすびがなった

 あちらにも こちらにも

 ゆったりと

 

 むらさきいろの

 なんというやさしさ

 そらのいろでもない

 

 はたけのいろでもない

 このいろは

 どこから きたのだろう

 

 とおいとおい

 じかんのたびをして

 たびのつかれもみせず

 うまれたばかりの あたらしさで

 

 なすびばたけに

 なすびがなった

 

 

・あとがき より

 

「詩を書くこととは、神の庭園へ出かけていって、そこに実っている果物をもいでくることだ」これはニィチェの言葉です。「神の庭園の果物」なんといい表現でしょう。その色彩・香り・美味、まさしく精神の最上の食べ物=詩にふさわしい比喩です。

(中略)

 詩人はだれもが心の中に、小さなたて琴を持っています。そのたて琴は、神の庭園に近づくと、ひとりでに鳴り出します。その音に導かれて、やっと中に入ることができるのです。詩人のたて琴、それはけっして個人の持ち物ではありません。茫々(ぼうぼう)たる天からのひとときの借り物です。

 

 

 

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「おとのかだん」

少年詩集

のろさかん 詩

ふくしまひふみ 絵

教育出版センター

1983(昭和58)10.25出版

 

 

 

・おとのはなびら

 

 ピアノのおとに いろがついたら

 ポロン ピアノが なるたびに

 ポロン ピアノが なるたびに

 おとのはなびら へやにあふれて

           にわにあふれて

おとのかだんを つくるかしら

 

 

・あまだれピアノ

 

 あめあがり おにわのほうで

 ピアノのおとが しています

 かすかな かすかな

 みみを すましていないと

 きこえないほどの おとが

 ポロン ポロン

 うえきのしたで

 かだんの チューリップのしたで

 だれでしょう ひいているひとは

 そらいろのふくをきた あまだれのこびとたちが

 おんがくかいを ひいているのですよ

 さあ そとにでて みみをすませて ごらんなさい

 

 

 

 

・あとがき より

 

 大自然を前にするとき、わたしたちをつつむ空や林や草花や鳥や虫たちにあまりに美しさに、絶句して立ちつくしてしまうときがある。

 生命のあるものはもちろん、生命のないものまでも、なに一つ美しくないものはない。その形、色彩・香り、それぞれに個性的で、繊細で緻密で、しかも豊かな調和にかがやいている。あの何十万種とも数えきれない草花や昆虫や小鳥たち、そのどれ一つを取ってみても私たちを感動させずにはおかない。

(中略)

 生命とは、それ自身の結晶である。しかもその美は、常に自身の進化を希求している。わたし達をとりまく大自然、大宇宙は、あるいは全て=美への進化=の過程なのかも知れない。

 

 

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今まで知らなかった詩人の方と詩の出逢い

うれしい♡