ファッションモデルの島アキは、自分のヌード写真が展示してある写真個展会場で、奇妙な男を目撃した。彼は、アキをモデルにした石膏裸像を丹念に撫で廻していた。それから数日後、アキは、呼んだマッサージ師に誘拐され地下室へと連れ込まれる。その薄暗い地下室で見たのは奇矯なオブジェの林だった。オブジェは女性のありとあらゆる部位をかたどり、色彩は奇妙だが手触りにおいては様々な器材を使った巧妙なもので、腕なら腕、唇なら唇とまとめて無数に並べられている。その地下室の主は蘭子の前に度々現れる「盲目の男」であった。

こちらは１９６９年制作の大映映画　　です。　（８４分）

日本推理小説の御大江戸川乱歩が１９３１年に発表した同名小説を、「この子の七

つのお祝いに」「卍」の増村保造が映画化したものが本作となります。

　ファッションモデルの島アキは、自宅に呼んだマッサージ師にクロロホルムを

嗅がされ誘拐されてしまいます。　目覚めたアキが見たのは、暗い倉庫のような建物

の中に壁一面女性の部位が彫刻された薄暗い空間。中央には巨大な裸婦像が横たわっ

ているという悪夢のような世界でした。

そこに現われたのが蘇父道夫という生まれながら全盲の男でした。道夫は全盲であ

るがゆえ、触覚に生きるなぐさみを見い出し、なかでも未知なる女性の身体に執着

し、父親の遺産も全て注ぎ込んで秘密のアトリエを建て、自ら理想の女性の彫刻を作

りつづけていたのでした。　そして、道夫は触覚で味わう彫刻の制作を決意し、その

最適なモデルとして、遂にアキという女性を見つけたのでした。　

道夫と彼の世話をする母親と共謀して誘拐されたアキは、触覚で楽しむ彫刻を完成さ

せるまで監禁させられる事になってしまうのでした、、。　

本作の画面に登場する人物は、アキ、道夫、その母親のわずか３人。そして現在では

差別用語？とされている「目〇ら」（劇中では目が見える人を「目明き」とも言って

ます）「キ〇ガイ」という言葉が連呼されています。（ここでは全盲と表記します

が。）

道夫が全盲について語る言葉に、そのコンプレックスの向こう側の世界を理解する手

掛かりが幾つかありました。「太陽の光、雲の色、美しい景色、素晴らしい絵、映

画、ところが僕には何も見えない。全盲の世界に残されているものは音、臭い、味、

触覚。」　様々なものを試し、道夫が他のものでは得られない喜びを見いだしたの

が、女性の身体の手触りという触覚の快楽だったという事から全てが始まっています

閉鎖された異様な空間と、道夫という男から逃げようとするアキの脱走、というサス

ペンス的展開もありますが、それはアクセント程度にとどまり、ほとんどはアキと道

夫の心理的やりとりが中心となっていきます。　逃げる事を半ば諦めたアキは、しば

らく道夫との彫刻制作につきあいますが、徐々にアキの女性的な誘惑にハメられて

いく道夫。お酒の味を知り、キスを知る道夫。　

二人の様子を見た母親は、今まで見た事のない息子の姿に動揺し、アキをこっそりと

逃がそうとしますが、、。ここで母親の女としての一面が露呈し、アキに対する嫉妬

と、自分の「もの」だった息子の自我の目覚めに恐怖と不安を感じ、アキという第三

者が介入した事により、親子のバランスが崩壊し、沸点を越えるまでに至ってしま

います。本作の映像的な異様性に目が行きがちですが、このアキを挟んだ親子の対話

場面が、最もこの作品の歪みを露呈していて、最も見応えのある場面でもあります。

特に母親こそが最も全盲の息子という存在にコンプレックスを持ち、全盲という障害

を忌み嫌っていたのかが明るみになるという恐ろしい場面です。

母親というたがから解放された道夫は、アキを犯し二人でアトリエにこもります。次

第に心を通わすようになったアキも目が見えなくなり、触覚で互いを求めるようにな

ります。同じように全盲になったアキは「全盲がかわいそうなんて、とんでもない間

違いね。」「触覚って素晴らしい、甘くて、深くて、確かで、それに比べたら色や形

なんて、まるで薄っぺらい、全然頼りにならないわ」と語り、徐々により強い触覚を

とめどなく求めるようになっていき、、。　

全盲の人間の特異性を極めていくと、いったいどうなるだろう？という疑問を追及し

た作品でもあり、触覚の果て、空想と肉体、苦痛と快楽、欲求を探求した作品でも

あります。　江戸川乱歩原作の映画に、何故か良作がないのが不思議ですが、本作は

その中でも良作の部類になる作品だと思います。

とにかく一度観たら忘れられないインパクト大なセット美術。これを制作した美術さ

ん、「こんなの作っていいの？」って感じで楽しんで作ってただろうな～と思える、

ダリの悪夢に出て来そうなシュルレアリスム風セット。これを見るだけでも価値があ

ります。　同時に、この作品をただのゲテモノ映画に留めなかったのは、道夫を演じ

る船越英二の功績はかなり大きく感じます。全盲の主人公の目の演技は見事で、下品

になりそうな道夫という男に品を持たせています。

「野火」「黒い十人の女」と名作に主演されている船越英二がよくこの作品に出演

したな～と、つくづくその冒険心に感心してしまいます。「時間ですよ」「熱中時

代」も、、。その母親を演じる千石規子の昭和感と、いやらしい目がこれまたはまっ

ておりました。アキを演じる緑魔子も存在感があり良かったのですが、若干セリフの

発声が気になってしまった私。　それと、全くいやらしさを感じないボディ。

ある意味作品が変態エロ映画とならなかった真の功績は、このいやらしさの無いお身

体のおかげだったかも知れないと思ったのでありました。　

様々な意味で個性的な作品ですが、何故か意外と道夫という人間に共感出来る部分が

あったりした私なのでした。　ちょっととっつきにくい作品かも知れませんが、機会

があれば一度ご覧になってみて下さいませ、です。　

では、また次回ですよ～！　

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予告が見当たらない為、坂本龍一の曲に乗せて制作してみました。　

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