「おおおおおはよう」

顔洗ったとき、鏡に映ってたのもニノだった。
俺が右向いたらニノもそっち向くし。
俺がウインクしたらニノもするし。
なんていうか確かに身体の重さも違う気がする。
声も完全にニノだった。

「なんかカズおかしくない?」
相葉くんってニノのこと『カズ』って呼んでるの知らなかった。
まぁ幼なじみみたいなもんだし2人のときはもっと親密な感じなのかな?
しょっちゅう泊まりに来てるぽいし……。
こんなに長く一緒にいても知らないことだらけだな。

「いやっ、おかしくないよ普通普通」
とりあえず俺はニノに徹することにした。
ここで『俺櫻井なんだけど』なんて話し始めて信じる奴いないでしょ。

「そぉ?ねーこのパン前にロケさせてもらったお店の人が送ってくれたんだけどね、すっごい…」
「うっまっそ!」

この状況にテンパってて見逃してたけどテーブルには触らなくても柔らかいのがわかる食パンとか
ぱりっぱりの層が幾重にもなるクロワッサンとか色んなパンが並んでる。

「俺そろそろファスティングしなきゃと思ってたのにすげぇ誘惑!いいロケしてるねー!」
目移りしながらも手にしたクロワッサンを半分に割るとすんごいバターの香りが…
「か、ず…?」
口いっぱいに頬張って青ざめる。

ニノがこんなに食い物前にしてテンション上がるわけない。

「な、なんかそんな美味しそうに食べるカズ珍しいね!」
相葉くんちょっと引いてるじゃん!
「あ…うん、うまー…い、ね…」
俺は今ニノなんでした。
抑え目に、抑え目に。


「ねね、今日明日ってフルで休みじゃん?何する?」
空気を変えようと相葉くんが無駄に明るく話を振る。
「あー…」
久しぶりの共通の休みに朝から2人で何かするってすげぇ仲良しじゃない?
前泊までして楽しみにしすぎじゃない?
なのに何するか決めてないって面白いなこの人たち。

「ゲームばっかしないでよー?」
ゲームなんてしたら下手なの一発でバレるじゃん!
しませんしません!
「えーアナタは何したいのよ」
あ。俺今の口調似てない?我ながらうまく寄せられた。

「何ってねぇ…久しぶりだし、ねぇ…」
ん?ってその続きを待ってるのになかなか言わない。
さっきの笑顔はとっくに消えてて。

「……カズ」
相葉くんの手が俺の方に伸ばされて。

口元についたパンの欠片を、拭う。

「な」
やばい。なんだこれ。
何この間。空気。
相葉くんいつもと雰囲気違うよ。

妙に妖しげで色っぽくてそんなの雑誌でしか見たことない。

「カズは」
「ドライブ!行く?」

あとでLINE見てみよう。
この2人はアレだ、分かんないけど多分アレだ。

秘密のやつだ。
そういう関係だ。

「ドライブか〜いいね!じゃ食べたら準備しよ」

相葉くんはいつもの相葉くんに戻って笑った。



前略おふくろ様。
大変なことになりました。
俺はサクライショウに戻るのと同時に貞操を守ることも課せられた模様です。