​────キス?

急に何を言い出すんだこの人は?
やっぱり携帯の登録名は『バカ』のままにしておこう。

「…だめ?」
えっちはしてくれないで、キスはせがんで。
俺に何を求めてるんだろう?

この人のボーダーはなんなんだろう?

「…まぁ……そのつもりで俺と会ったんなら…」

断れるわけないし。
むしろ願ったり叶ったりだ。



「…なんでソファなの」
「え、だってあんなテーブルんとこでなんて…ねぇ?
ベッドじゃ生々しいし。てか変なこと考えないでよー?」

固めの、俺が横になってもまだまだ余裕があるほどの大きなソファ。

「じゃあ…よろしくお願いします」
「何コレなんの時間なのよ」
ふざけてないとこの異様な空気に耐えられなくなりそうで。

「ふふ。じゃ目、閉じまーす」
それはアナタも同じみたい。

笑いを堪えてる、少しアヒル口みたくなった唇を見つめる。

これが本当に最後の1回になりませんように。
このキスが永遠に続きますように。

そんな馬鹿げた願い事をしながら顔を近付けた。


ちゅ、と音がして。

熱と、感触と、その音で全身鳥肌が立つ。

​────好き、だ。
俺はこの人が好きだ。

感情だけじゃなくて身体もそう言ってる。
血液が騒ぎ出して身体中駆け巡って熱くなる。
一気に上がった体温は脳を溶かして理性を溶かして。

「ん。に、の…」
後頭部を抱えて夢中でキスをした。

アナタはこの一瞬触れただけのキスで満足だったのかもしれない。

でもそんなの俺には無理で。

離れたくない。
離したくない。

相葉さんの手が、俺の腕を強く掴むのは。
…それは拒否したいからじゃないよね?
押し退けようとする、それではないよね?


舌が絡まって、逃げれば追いかけてくれて、吸いつけば小さな吐息が漏れる。

「好き。相葉さん、好き。ほんと俺…」
これだけでなんで泣きそうになるんだろう。

こんな身体の一部が触れてるだけで溢れる幸せという感情はなんなんだろう?

こんなことしてるのに俺の気持ちは届いてないの?
届いてるのに最後は受け取り拒否なの?
こんなことしてるのにアナタは俺を友達としか思ってないの?

そう思うから泣きたくなるのか。

満たされているのか満たされていないのかわけがわからなくて
言葉にならないから涙となって溢れようとするのだろうか。

「…っは……にの……」
切なげな声にぞわりとする。

​────止まらない。

俺より大きな身体を抱き合ったままゆっくり倒した。

「に…」
「好きなの。ここでやめるなんて無理…」

こんなに昂った気持ちを、2度も抑えられない。
アナタだってそうでしょう?

見たことないよそんな潤んだ瞳も、紅潮した頬も。

「にの、やめた方がいい…」
今更何を取り繕ってそんなこと言ってるの?

『1回おれは止めたからね?』ってこと?
あとは にのが無理矢理したんでしょって言えるから?
アナタなりの逃げ道のつもり?
俺のせいだろって?

………いいよ。
俺がしたくて勝手に暴走したんだ。
アナタはちゃんと俺のことを思って拒んだ。

…それでいいよ。
アナタは何にも悪くない。


独りになった寂しさから俺にキスをねだったくせに最後はお預けにするなんて


そっちの方が俺には酷だよ。
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