『もうすぐ着くよ』

この連絡からきっと3分以内に彼はくる。

身体を起こすとローテーブルに携帯を置いた。

「あ、風呂わかしてなかった」
あわてて自動ボタンを押しに行って改めてソファに座る。

―――お気に入りの紫の、ソファ。


あ。
でも智くんはシャワー浴びてきたのかな?
おれがまだだって知ったらいっしょに入りたいって言うよね?
ドライヤーまでかけてくれるほど、おれのこと構うのがすきなんだから。


「ただいまぁ。遅くなっちゃったぁ」

玄関から智くんの声と足音が聞こえる。

「おかえり。ビール飲む?おふろ?」
「風呂!一緒入ろ。洗ってあげる」
「くふふ。言うとおもった」

智くんはうれしそうにおれの服を脱がしてくれる。

するするとボタンをはずす指はいつもみとれちゃうよ。

「…あれ?口どうしたの?ケガしたの?」
「あ、そうそうひでぇんだよニノが」
「にのにやられたの?」

まだかさぶたにはなってなくて、ちょっとぶよってしちゃってる。

「キスしたら噛みついてきて」
「えぇ?いきなり?」
「うん。ひどくない?」

おれを脱がすとこんどは智くんの番。

しなやかな筋肉があらわになってく。

「ひどいよー。今度会ったら怒っとく」

智くんはおれのなのに。

智くんはみんなに貸してあげてるだけなんだよ。

だからきれいな状態で返してくれなきゃ。


「あ、あとね、翔ちゃんとは終わりそう」
「そうなの?」
「合鍵ニノに渡しちゃった」
「ふーん」
「ニノが使うかわかんないけどね?」
「そうなの?」
「わかんないけど」
「わかんないね」
「ふふっ」
「くふふ、どっちでもいいね」

智くんはぎゅってだきついてくる。

お風呂がわくまでずっとこのままでいたいのに、ふと智くんは顔をあげた。
「あ…潤くんに返事してなかった」
「…それあとでよくない?」

クーラーで冷えた身体に智くんの体温は心地よかった。

「舐めてあげる」
そこはまだほんのすこし血の味がした。

智くんのからだの中をかけめぐってた、血。

今度はおれの一部になるのかな。

「ん…まーくん、風呂…」
「やっぱその前にしたくなっちゃった」
「……もぉ」

上目づかいでおれを見る顔もかわいい。

こんな智くんともう会わないなんて翔ちゃんてバカなのかな?
せっかくないしょで貸してあげてたのに。


…まぁいいや。

またいつでも貸してあげる。

おれはひとりじめなんてしないから。

みんなに智くんの魅力知ってほしいから。


また、貸してあげるよ。




☆おしまい☆



…おしまい…なんですけど…言い訳はあとがきで…ハハ