長い長い、着信音だった。

「…大野さん?」
『なに、珍しい。メンバーからの電話って緊張するんだけど』

力の抜けた、少し笑いを含む話し方。

これが、人を油断させるんだ。

「翔さんのことで…話あんだけど」
『翔ちゃん?何?』
「色々整理させて。わかってるでしょ?」

俺の言葉に少し沈黙があって―――

『んふふ、そっかぁ』

声色で表情が変わったのが携帯越しでもわかった。

『翔ちゃんちの合鍵ニノにあげるよ。ウチわかる?』


━─━─━─━─━─



大野さんの部屋はイメージとは似つかわしくないほど洗練されててさらに腹が立った。

「適当に座ってよ。飲む?」
ソファもない部屋で座れと言われても…
とりあえず長居する気もないからビールは断った。

「…どういうつもり?あんた潤くんと付き合ってんじゃないの?」
「翔ちゃんはニノに乗り換えるって?」
「質問に答えろよ」

自分だけビールを煽ると楽しそうに俺を見た。

「翔ちゃんすごい俺のこと好きでしょ」

その目は余裕で、自信満々で…
こいつのこんな顔、何年も一緒にいたのに初めて見る。

「俺の何がそんなにいいと思う?」

じり、と体を俺の方に近づけて…

「俺みたく翔ちゃんをずっと虜にできる自信ある?」

ダンスのしなやかさですぅ、と大野さんの腕が上がる。
伸ばされた人差し指の行方に目が離せなくて…

「教えてあげようか」
吸い込まれそう。

「ほら」
飲み込まれそう。

「ここ。こうやって触んだよ」
「!」
腕をなぞられて…それだけなのに全身の毛が逆立つようだった。

「…めろよっ」
振り払った手を瞬時に掴まれてそのまま床に押し倒された。

「…っ、な」
大野さんの顔が近くて…

「そんでね、翔ちゃんはこういうキスが好きなんだよ」

唇が触れるか触れないかの距離で焦らされる。

「…やめ」
「翔ちゃんにしてあげなよ」

ぺろりと舐められて…そのまま唇を咥えられた。

「ん、…っ!」
「って」

大野さんが離れた瞬間、口の中に血の味がして。

口元に手をやった大野さんがこっちを睨む。

「ニノ~…商売道具なんだから気をつけてよ」
自分の唇から滲む血を確認するように指を見つめてる。

「…やめろよまじで。ふざけんな」

身体が熱い。
自分で感情がコントロールできなくなりそう。

それは怒り?

…怒りの、はず。

「舐めて」
綺麗な指が、血に染まった指が目の前に差し出される。

こんなことする奴だったの?

翔さんも、潤くんも、こんな奴が好きなの?

「こっちも。止まんないよ」

また大野さんの顔が近づいて……

「ニノのせいだよ。治して」
「やめ…」

なんで皆抗えないの?



なんで俺も―――




動けないの?