イン・ザ・ルーム #22

潤は素直だから。

潤は俺の言うことをすぐ信じるから。



午後の仕事に備えて資料の最終チェックをしてると携帯が鳴った。

『…翔くんごめん、今大丈夫？』
「潤？どした？」

声のトーンでこれからの話が潤にとって良くないことなんだろうと推測できる。
そしてそれが智くん関連のことだということも。

『…昨日ね、また智と連絡取れなくなって』

あぁやっぱり。
口元が緩んで…それが声に影響しないよう、努めて低い声を意識した。

「また？で、どうしたの？」
『1時間毎くらいにLINEして…最後電話して』

うわ。
それはしつこいわ。

『冗談ぽくだけど留守番にも残して』
「…なんて？」
『………俺あんたの彼氏だよね？って。なんでしょっちゅう連絡取れなくなるの？って』

うわうわ。
それは掛け直したくなくなるわ。

「で、今日この時間になっても連絡がないんだ？」
『そう』

馬鹿だね潤は。
自分だってそんなことする女嫌だろうに。

そんなことまでわからなくなるくらい智くんが好きなの？

「まぁ…返事する暇ないだけかもしれないし。同業者ならお前もわかるだろ？」
『…ん』
「もう一発LINEしてあとは待つだけにしとけば？」
『………ん』

潤は納得してるのかしてないのか…ただ反論だけはせずお礼を言うと電話は切れた。


「…ばーか」
真っ暗な画面に向かって呟く。

恋愛のイロハもわからないで。
智くんのこと何にも知らないで。

こんな俺を信用して。
こんな俺に頼って。

「ほんと馬鹿」

携帯を放り投げようとしたとき、画面が明るくなると着信音が鳴った。

「！」

そのタイミングの良さと過度の期待に心臓がバクバクする。

「智…くん？」
『翔ちゃん今からそっち行ってもいい？』

……俺だって馬鹿だ。

この人の言葉には逆らうことなんてできない。

「あぁうん…あとちょっとで家出るけど」
『ウン、ちょっとでいいよ』

貴方が何も言わないからこそ。


「ちょっとで…いいの？」


ほんの少しの仕草や言葉尻に


期待して、縋ってしまうんだ。