「ふふっ。ふふふふふふ」

潤はさっきから両手で口元を隠して笑いを噛み殺してる。
…全然隠せてないけど。

「はぁ翔くん、幸せってのはこういうことを言うんだねぇ」

聞いてもいないのに潤は隣に座って話し始めようとする。
てか今日は俺個人の仕事の日なのに近くで撮影してたとかなんとか言って楽屋に上がり込んできて。

「リーダーって意外と積極的でさ、ちゃんとリードしてくれんの。仕事中とは正反対」

…それは智くんと潤が一線を越えたってこと。

それなのに俺は不思議なほど冷静だった。

「リーダーの唇って柔らかくて…どんな女優さんたちより綺麗で」

潤はその夜のことをうっとりとしながら語る。


知ってるよ。
とっくに知ってる。
お前より俺の方がよっぽど智くんのこと知ってる。

「あの人やっぱ大人なんだなって俺改めて」
「やめろよ」

それ以上聞いていたら黙っていられなくなりそうで思わず語気を強めた。
潤は俺がそんな反応すると思ってなかったのか、やばいと言うよりただ驚いた様子で黙り込んでしまった。

「…二度とそんな話しすんな」

その空気が気まずくて…立ち上がると潤は戸惑ったように俺の後を追おうとするから。

「もうお前帰れ。俺も出番だし」
ドアを開けて背中を押した。

「翔く」
「おつかれ」


……苛々する。

だって潤は全く悪くなくて、俺が勝手に嫉妬してるだけで。

それが苛々する。

誰かのせいにできたなら。

そいつを責めて気が済めばどんなに楽なんだろう。

貴方を嫌いになれたなら。

貴方を責めて嫌いになれたらどんなに楽なんだろう。




そつなく仕事も、打合せと称した食事会もこなして帰ると玄関に違和感を感じた。


そこには……俺の物ではない靴がきちんと揃えられていたから。


「智……くん?」