「でね、俺すごい緊張しちゃって自分で何言ってるかも
よくわかんなくなっちゃうくらいだったんだけど」

今日は潤の行きつけらしい雰囲気のある個室のバー。
鰻じゃなくてやけに洒落た野菜をつまみながら。


聞いてもいないのろけ話ってやつを俺は無言で聞いていた。
聞いてもいない…けど事実が知りたくはあった。


なんて告白したんだろう?
なんて返事をしたんだろう?
それからの二人はどんな会話を?

智くんはどんな顔をしていたんだろう?
嬉しそうだった?
照れてた?

…本気で…

お前を好きだって顔をしてた?


「…で、智くんは何て?」
潤がそのときどんな気持ちでいたかなんて正直どうでもいいんだよ。
智くんが少しでも躊躇ったり、俺とのことを匂わせたりしてないかそれが…

「うんとね、『ありがとう』って。『嬉しい』って」
「…そんだけ?」

それだけなら付き合うってことにはなんなくね?
ほら潤の勘違いじゃん。

ほっとした俺に潤は気付かないまま照れくさそうに一度俯いて。

「そんで…リーダーも俺のこと好きって思ってたって」




…それからのことはよく覚えてない。

起きたら自分ちのベッドに半裸で寝てた。
久しぶりに頭がガンガンして異常に喉が渇いてた。

夢だったのかなとも思ったけどどこからが夢であってほしかったのか
自分でもわからなかった。

智くんへの想いすら、夢だったらよかったのかもしれない。


…智くんはずっと潤のことが好きだったの?

じゃあなんで俺とこんな関係になったの?

『なんで』?

俺は貴方が好きだったからだよ。
ずっとずっと貴方が好きだったから。

いつしか憧れや尊敬は恋と名の付くものになっていて。

………じゃあ貴方は?

貴方はなんで?

貴方の気持ちはどこにあるんだろう。
最初から潤にあったの?

始まりはどんなだったんだろう。
貴方は覚えてる?


俺はね、俺は。




ただ貴方とのキスを鮮明に覚えてる。


冷たくて、甘くて―――



泣けるほどのキス。