「・・・くん、が・・・」
『ん?』

潤くんはまだ真っ直ぐ俺を見てる。
操られるように俺の口は動いて・・・

『潤 ク ン ガ 来 テ ル』

自分の声なのにそれは機械みたく無機質に響いた。




しばらく沈黙が流れて。

『・・・あ、松・・・潤?そうなんだ、ははっ』
俺はなんでか急に泣きそうになって。

『あ、じゃあ俺行かない方がいっか。ごめん急に』
携帯を耳に当てたままぎゅって握るしかなくて。

『じゃまた連ら』
その瞬間携帯を奪い取られた。

「!潤・・・」
「翔くん?今から来るの?ゴメン俺帰るから大丈夫だよ」

潤くんはテレビで見るみたいに爽やかに笑って話し続ける。
「うん、いいのいいの。ははっ二人の邪魔はしませんて」

・・・俺は、ずるい。

潤くんがこう話してくれるってどっかで計算してた。

「えぇー?いいよまじで。今度日を改めて飲めばいいじゃん。
この三人で飲むってなかなかないよ?ちゃんとセッティングしますって。
・・・うん、・・・うん。・・・じゃあ」

潤くんは携帯を切るとその作った笑顔のままゆっくりこっちを見た。
携帯を目の前に差し出されて。
「はい」

ただそれを見つめる俺に、潤くんは手をとって携帯を握らせる。


俺はずるい。
いつも大事なことから目を逸らして、楽な方に逃げて。

「30分くらいで来るって」

傷つくのが嫌で、結果誰かを傷つけて。

「・・・なんで泣くの」

涙は頬を伝って顎からぽたぽた零れ落ちる。

なんで泣くんだろう?
こうなってよかったじゃん。

俺の世界は今日も平和じゃん。


「和也」
大きな手が頭を撫でて、そのまま頬に添えられた。

親指で涙をぬぐってくれて、睫毛に触れるから・・・目を閉じた。


触れた唇はあったかくてあの頃と変わってなくて。

名残惜しむように離れるその癖も変わってなかった。