急に20℃超えの気温になって、畑の花や野菜が活発化した。

↑ナバナ　　　　　　　　　　　　↓ブロッコリー

アブラナ科の野菜、ルッコラ、ナバナ、チンゲン菜、水菜は、一斉に「菜の花」に変身。水仙は見頃。チューリップはつぼみの色が色味を帯び、寒さのために地面にへばりついていたイチゴや三つ葉、パセリの茎は立ち上がり…。目を上げると、梅は生き急ぎ、杏やサクランボはもう数日で花が開く。

アンズのつぼみ

こんな植物の春も、ウクライナでは焦土の中。

でも、気持ちを整理して、晴耕雨読。　書の準備のために、李白の漢詩を読んでいる。もちろん、原詩は見るだけ。日本語訳を読む。

李白の生涯は過去の記述にも矛盾が多く、謎の人物だが、この本をきっかけに、私の中で李白の像が固まってきた。

のっけから、李白が漢人ではなく、生まれはシルクロードの砕葉（スイヤブ）やアフガニスタンの条支（ガズニ）で、顔は眼がくぼんでいて、口は大口、ソグド人か、バクトリア人というイスラム系外国人の可能性が高いという。

李白　もちろん、想像画だよ

李白と言えば、酒と月が大好きで、あちこち放浪して豪遊したノーテンキな有名人というイメージ。最後は水に映った月をすくおうとして溺れ死んだ…とされている。星から生まれ、月に帰った仙人という伝説も…。

でも、この本を読むと、極めて俗人。　親は裕福な商人だったが、李白は当時、名声を得るための唯一の方法、朝廷に士官することを望んだ。上昇志向ばかりで怠け者。

しかし、商人の家系の外国人は、科挙制度から締め出され、李白は科挙試験ではなく、高官や皇帝縁者から推薦を受ける方法を選び、就職活動のために地方を転々とした。　だから、例えば月をみて、「君を思わん」と詠んでも、その君は推薦をあてにしている地方の有力者だったりして…。

きわめて、生臭い、通俗的。　ほめ殺しの詩も多い。

生涯を通じて、自分の文学的才能を疑わず、これを武器に仕官を狙って放浪するうちに侠客となり、人に無心をし、殺しもやり、途中で有力者の娘と結婚したり、同棲したり、その人生では計４人の妻がいた。

その李白も４２歳になって、当時の皇帝、玄宗の妹の推薦で朝廷に召し出され、一緒に暮らしていた妻子に「我輩は、草むらで朽ち果てるような人間ではない」と高笑いし、馬にまたがって首都の長安をめざした。

念願の宮廷生活。皇帝の近くに待機し、呼び出されれば出かけて、皇帝のプライベートな娯楽や趣味につきあう役目。碁の相手、代筆や占い、話し相手…。　でも、大半はほとんど詰所で皇帝のお召を待つ毎日。詩作も皇帝の命令で、内容のないものばかり。「蠅のような詰まらい人間に汚されるばかりで、偏屈で短気だと笑われている」という詩を残している。

その生活も１年半で、朝廷を追放される。理由は楊貴妃の機嫌を損ねたためとか、酔って宮中の秘密が漏洩されると危惧されたためとか諸説あるが、追放されたことに対しては未練たっぷり。

皇帝から手切れ金をたっぷりもらい、李白は放浪を続ける。途中で、杜甫とも交遊し、「山人」ネットワークができた。山人とは、隠遁のポーズをとりながら、官界への進出をねらう官僚予備軍のこと。道教を修め「道士」という朝廷復帰への資格もえた。

李白の放浪は、やたら急いでいたり、辺境の地をあちこち訪れたりする。地方政治の実情を皇帝に知らせるスパイだったという説、とくに反乱を起こす安禄山の偵察が放浪の目的だったというのは面白い。

７５５年、安禄山はまたたく間に、長安を占領し、玄宗は四川に落ちのび、楊貴妃は途中殺される。

７５７年、李白は玄宗の子、永王に呼び出されて仕えるが、永王の敗走にはつきあわず、脱走し、捕らえられる。

獄中で多くの高官に助命嘆願の詩を送り、釈放されるが、「夜郎（やろう）」というへき地に流罪され、干ばつを理由に恩赦される。

放浪の末、やっと妻子の元に帰るが、７６２年に病死。６２歳。死んだのは当塗の県令の家。原因は溺死ではなく、酒の飲みすぎらしい。

１週間ぐらいかけて、李白の詩と人生を追ったが、書きたい詩はみつからなかった。

途中で杜甫の詩をつらつら読んだが、こちらのほうが性に合う。

李白もせっかく読んだので、杜甫が李白を夢に見て読んだ詩をかくことにした。

杜甫　李白より１１歳年上

最後に杜甫の詩を紹介します。杜甫５８歳、李白４７歳の時書かれた。漢文の字面がいいのよ。早く筆をとりたい…。

日本語訳を前半だけです。

死別は　ぐっと声をつまらせて泣くほどに　悲しいもの

生別は　いつもいつも心のいたむ　辛いもの

江南の地は毒気のこもる病気の多い土地がらだが、

そこに追いやられた李白からはたよりがない

なつかしい李白が私の夢の中に現われた

きっと私がいつも思っているからなのだ

しかしそれは何事もない時の李白の魂ではなかったようだ

遠く離れているのでどういうわけかはわからない

李白の魂は楓の林が青青としている所からやって来た

魂はくろぐろとした塞（とりで）からかえって行った

あなたはいまは捕われの身なのに

何で翼を得てここまで来られたのですか

落ちかかる月の光が屋根の梁いっぱいに照っている

あなたの顔がまだそこに照らしだされているようにも見える

江南の地は水が深く波ははてしなくひるがえている

蚊竜（みずち）の餌食（えさ）にならないようにしてください

蚊竜（みずち）　体長３ｍ　４本の足

李白は、いいかげんな人間だったけど、友だちとは仲良かったのよね。酒のおかげかな？

李白と杜甫