島巡り 佐久島巡り

 

 夏は島がいい。今年の夏は佐久島に夢中になった。炎天下だから、ウォーキングをしていても観光客に会うこともない。船着き場まで車で1時間10分、船で20分。ということは1時間半後には島を散策している。東京ドーム3.5倍ほどに200人ほどの方が暮らしている。

 

 島巡りはいい。若い頃、三重県の答志島にはまった。ある時は最終便に乗り遅れて、漁船で本土(三重県鳥羽港)に運んでもらった。神島のキャンプの夜も忘れない。五月雨の中、三島由紀夫「潮騒」の舞台で知られる小島を巡った。幸い、夕方に晴れた。浜にテントを張り、深夜頭を出すと、灯台のサーチライトが海上を滑っていった。空に目をやれば、流れ星が飛んだ。

 

 さて、7月31日の佐久島の海は適度に荒れていた。白波が堤防にぶつかり、堤防を越えて道路に落ちて砕け散る。圧巻だ。

島には円墳古墳が点在する。6世紀頃から栄えていたようだ。またここはアートの島としても売り出している。だから海岸沿いの所々にアート作品が並ぶ。なんといっても、素晴らしいのは手つかずの海岸線が散在し、豊かな自然林に遊歩道が巡っている。

 

 海が見渡せる海岸辺りにアート作品「星を想う場所」と題したオブジェがあった。若ければ、早速テントを張って、深夜の星空を眺めたことだろう。潮騒に包まれながら、星を想ってみたい。

 星は無窮を体現している。あるいは孤独と対峙できる唯一の場所なのかもしれない。作者は「見上げてごらん夜の星を」と問いかけているのだろうか。いや、作者は「詩が生まれる場所ですよ」と伝えたかったのかもしれない。

 

 

 遠い昔、ケンタウルス座は地球から最も近い星座と習い、それでも4.3光年という。ケンタウルスの下半身は馬、上半身は人間とギリシャ神話は伝える。一体、いつ、そんなことを習い覚えたのだろうか。そんなことを思いながら、また西の海を島巡り。

 

 海岸から山中に入って、廃小屋に出た。すると赤とんぼが乱舞していた。ただならぬ郷愁に三木露風作詞の「赤とんぼ」だ。大人の世界を知らなかった幼少期に見た物干しざおの先、午後の日差し。今はその陽射しに無数のきらめく赤とんぼ。

 

 ひっくり返りたくなった。仰臥してみれば、青い空が林の上にただ広がっているばかりだった。それは大人の空のようでもあり、少年の頃に見た空のようでもあった。