時空(とき)を超える想い ~ ト・ク・ベ・ツ ~
ACT.10 作戦
(Side 尚)
俺がキョーコを手に入れるためにはどうすればいい…?
眠れない夜を過ごした俺は…そればかり考えていた。
今まであたりまえのようにあったものが…忽然とその姿を消して…いく恐怖。
どんなに離れていても、会えなくても平気だったのに…
キョーコは…簡単に落せる女じゃない…。
わかってるけど…不安になる。
これ見よがしなアイツの牽制…それが意図するものは?
アイツも動き出すことを決めたのか?
でも、無防備なキョーコのことだ…あんな時間に一人暮らしの男の家に行くってことが…
どういう意味を含むかなんて考えてないに決まってる。
それに…相手はあのキョーコだからな…
天然記念物的乙女に紳士を気取ってるアイツだって迂闊に手は出せないだろう?
だけど…キョーコの中で…確実にアイツの存在は変わってきている。
奏太だって侮れない…。
奏太のあの目…一瞬だけ見せた俺への敵意…アイツだって男なんだ…。
キョーコはきっと…奏太相手に警戒心なんて持たないだろう…
そう考えると、アイツの方が厄介かもしれない。
それに…キョーコは綺麗になった。
そう…カリスマ女子高生なんていって持て囃されてたアレは確かに…いい女だった。
キョーコが綺麗になったのは…いや、俺のプロモに出たときだってそうだったじゃねーか。
プロのメイクを施せばアイツだってそこそこ…
そこそこ…?違う…俺は認めたくなかっただけなんだ。
俺の知らないキョーコが増えていくことを…。
アイツの事は俺が一番知ってるはずなんだ 。
揺るぎないはずの自信…それが今揺らいでる。
とはいえ、俺を憎んでる今のキョーコ相手に…何ができる?
電話すらまともに取り合ってもらえない…会うこともままならない。
この距離を縮めるためには 。
俺は…ミルキちゃんに電話した。
次の新曲を変更してもらうために…そして、キョーコへの想いを曲にした。
だけど、ただ曲を作るだけじゃ…クリスマスの二の舞だ。
キョーコに伝えるためには、俺はある計画をミルキちゃん持ちかける。
「…わかったわ。その為の舞台は用意してあげる。
その代わり、…きっちり決めなさいよ?」
ミルキちゃんの計らいで俺は、キョーコに会うことになった。
( 余所見なんかさせない・・・お前の1番は誰にも譲らねー。)
そんな決意を心に秘めて 。
だけど、キョーコは俺の顔を見たら・・・いつものように怒鳴り散らすんだろうな。
そんなじゃれ合いにも似た…あのやりとりが本当は心地よくて…
つい、いつもの減らず口を叩いてしまいそうだ…。
そのままの自分を曝け出せる相手はキョーコしかいないのに
だからこそ…素直になれない自分がいる。
『 この先 俺がこの世で 俺を落とせる機会をやるのは
キョーコ お前だけだ 』
キョーコにも約束した…俺は誰にも負けない 。
敦賀蓮や奏太になんか…負けやしない…キョーコは誰にも渡さない。
ピンポーン…
モニターに首を傾げるキョーコの姿が映った。俺は無言のままに、オートロックを解除する。
もう少しで…ここにキョーコがやってくる。
俺は玄関へと向かうと、インターフォンが鳴るのを待った。
そして…
「よぉ…遅かったな」
口を開けば…昨日のことを問い詰めたくなる…。
だけど、俺は何もなかったように努めて冷静に切り出したつもりだった。
すると…
「なっ…どういうことなの?まさかこのマンション…あんたの?」
俺の出迎えに驚きを隠せない様子のキョーコが警戒心を露わにする。
「…そんなのどうでもいいだろ?…早く入れよ、仕事で来たんだろう?」
入ってこようとしないキョーコの腕を掴んで玄関へと引きいれた。
「…麻生さんも中にいるの?」
「……」
問いかけには応えず無言のまま、奥へと先に歩いていくと…
静かにキョーコが後をついてきた。
俺はそのままキッチンへと移動し、声をかけた。
「コーヒーでいいか?」
きょろきょろと部屋を見回しているキョーコから返事はなかった。
とりあえず、2人分のアイスコーヒーを手に戻ってきた俺に、
開口一番キョーコは、ミルキちゃんのことを訊いてきた。
「ちょっと…麻生さんはどこにいるの?」
「今日は来ない…」
つうか、ミルキちゃんはここには来たことないけどな。
ここは祥子さんしか知らない…仕事の時にしか使わないプライベート空間。
ミルキちゃんがいないと知ったキョーコが俺に詰め寄る。
「え?!だって…急ぎのオファーっだって聞いたから来たのに…」
「そうだ…発売日までそんなに余裕はないからな。
オファーは今頃…お前の事務所に契約書が届いてるだろうよ?
さっき、曲も仕上がったからな。」
「はぁ?じゃあなんでここに呼んだのよ?」
「お前に俺の新曲を聞かせる為だ」
「だから、なんで私がアンタの曲を聴かなきゃいけなのよ?」
「決まってるだろう?お前が俺のプロモに出るからだよ」
「なっ…麻生さんからのオファーって聞いて、
もしかしたらっとは思ってたけど…なんで、また私なのよ?
私じゃなくったっていくらだっているでしょう?」
そう云って席を立とうとするキョーコの腕を掴んでまっすぐに見つめていった。
「お前じゃなきゃ意味がないんだよっ!」
「意味が分かんない…なんで私じゃなきゃいけないの?」
そう云いながら…俺の視線から目を逸らそうとするキョーコ。
「それはコレを聴けばわかる…とにかく、今度会う時までに聞いておけよ?」
お前を…俺の女神にしてやるんだから 。
そういって曲を入れたiPodをその手に握らせた。
「…イヤよ!オファーだってまだ引き受けたわけじゃない…
私が今日ここに来たのはね、アンタに電話かけてきて欲しくないからなのよ!
どうせアンタが麻生さんから聞きだしたんでしょうけど…ってそういえば、
何の用でかけてきたのよ?」
「なっ…そんなのっ…別にいいだろっ、それよりかお前、なんだって敦賀蓮の家になんか…
まさかとは思うがお前ら…」
「まさか…って何よ?」
「つきあってるんじゃねーだろうな?」
「つきあってるって…/// 」
「…なんでそこで赤くなるんだよ?」
「 …アンタには関係ないっっ!!」
…関係ない? 俺の心をこれだけ掻き乱しておいて…
アイツの事で頬を染める姿をみせるなんて 。
手順を踏んで…キョーコの心を取り戻そうと必死になってる俺がバカみてーじゃねーか!
所詮…俺にはそんなまどろっこしいの向いてねーんだよな…
そう思って実力行使に出ようとした時…キョーコの携帯が鳴った。
時間を見て慌てたキョーコは…電話にも出ないで、急いで玄関へと向かう。
そんなキョーコに俺は…
「…逃げるのか?」
お決まりの言葉…こう云えば、必ず乗ってくると思ってた。
俺の挑発に…キョーコだったら、絶対引いたりしない自信があったから。
「逃げる…ですって?」
案の定…キョーコは急いでるようだったのにも関わらず、俺の話に足をとめた。
「ああ、そうだ。最近、綺麗だなんだの騒がれて浮かれてるみてーだったから…
その実力とやらを見せてもらおうかと思ったんだけど
どうやら…買い被ってたみてーだな…」
わざとキョーコの負けん気を刺激するように…いつもの調子でキョーコに悪態をつく。
「~~っ!わかったわよ。見せてあげようじゃない!!
どんな役だって 女優 京子 がこなしてみせるわよ!」
「言ったな?その言葉…忘れないぜ?」
そうこなくっちゃな…
キョーコのことは俺が一番わかってる。
お前が断れないように…先回りすることなんか簡単なんだ。
だけど、そんなキョーコの性格を利用して…アイツがあんな行動に出ていたなんて…
そして…まだ見ぬ伏兵の存在にキョーコを巡る戦いが混戦を極めていくことになるなんて…
この時の俺には知る由もなかった…。
(2010/09/25)