被害者連絡会より

【処方薬への依存】

 「能力と判断に従い、患者に利する治療を行い、有害な治療法は決してとらない」。紀元前5世紀、ギリシャの医師ヒポクラテスの言葉だ。当時すでに、医療は時として患者を害することが知られていた。

 うつなどで病院を受診し、睡眠薬や抗不安薬などを処方され、治療を続けるうちに薬がやめられなくなる「処方薬依存」が問題となっている。

 熊本市でもこのほど、依存を経験した人たちの勉強会があった。家族を薬の大量処方で亡くし「精神医療被害連絡会」を立ち上げた中川聡さん(東京)が講演、「処方薬依存は医原病」と強調した。

 勉強会を準備した女性の経験も壮絶だ。数年前、しびれや息苦しさを訴え精神科を受診。多量の薬を長期間飲み、体の筋肉が勝手に動くようになった。ネットで調べ「薬を減らすしかない」と決断。病院を変え、何とか日常生活が可能なまでに回復した。「問題の深刻さを多くの人に知ってほしかった」

 自殺した人の半数は精神科の受診歴があり、その6割は過剰服薬だった-という厚生労働省研究班の報告もある。「症状が改善せず、やむを得ず薬が増え長期化する」「依存への認識が不足し、医師に処方を求めてしまう」といった患者側の事情のほかに、国内では「外国に比べ多種類の薬が投与されている」問題も指摘している。実態解明と対策を急ぎたい。

 以前、処方薬依存について取材した医師が、「薬は回復を手助けするが、回復そのものではない」と副作用の危険性を強調したのを思い出す。薬だけに頼らない診療環境の整備を進める必要がある。(松岡茂)

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2013年07月02日