呼吸の乱れ
この話に驚いた一瞬の隙を突かれ、僕の方の消化液が全速全身と言わんばかりに喉を駆けあがってきた。
酔いの不快さと至近距離にある香水の原液、そしてさっきの血の気が引く話が後押しし、最終防衛網を突破されてしまった。
これではもう止まらない。奴らの猛進を止める者はもういない――――
「オエエエエエエ……!」
……ついにやってしまった。遠足のバスの中、他の奴が介抱されながらゲーゲー吐いてるおぞましい姿を反面教師に、僕だけは絶対に人前で吐かないと心に誓っていたのに。
こいつらは知らないだろうが、僕の世界では人前で吐くと言う事は、学校で大きい方の用を足す事の次に”禁忌”なのだ。
そして今、その姿をついに人前で見られてしまった……
山賊達のドン引きした視線がグサグサと突き刺さる。さすが山賊、文字通り身ぐるみをすべて剥がされてしまった。
こうなったらもう捨てる物など何もない。後は煮るなり焼く成り好きにしてくれ。
「見てごらん、この症状。これはラフレシアの消化液を吸いこんだ際に現れる症状よ」
「ラフレシアの体液を体に侵入させた場合に起こる症状。それが倦怠感、めまい、吐き気、発熱、寒気――――」
「そしてそれが神経中枢まで達すれば、次の段階として痺れを伴った歩行障害に代わり、呼吸の乱れと共に徐々に全身を麻痺させていく」
『そういえばさっきこいつ、いきなりケツからぶっ倒れてた……』
「オエエッ! ゲホッ! ゲホッ! ハァ……ハァ……」
それは違うぞ山賊達よ、僕がしりもちをついたのは、お前らが連れてきた凶暴な竜にびっくりしただけだ。
……そしてこいつが何をしようとしているかも今わかった。こいつ、魔女の癖に本当に”魔法を使わず”撃退するつもりらしい。
「こいつにこれらの症状が現れたのは、一番アタシの近くにいたからでしょうね」
「そしてこれは元々消化液。体内に侵入した消化液は様々な症状を引き起こした後、つまり獲物が弱り動けなくなった頃」
「ゆっくりと溶かしていくの。……その者に備わっている……”内臓”をね……」