想いを歌声に乗せて(6)




-----演技対決・初顔合わせの愛娘-----





『出来れば英語にしてやってくれ。
ライアンが困ってるからな。
はじめまして、クー・ヒズリだ。』



面白いと言いたげに笑みを浮かべたクーに、雪花に扮したキョーコも不敵な笑みで返す。



『…クス。
じゃ、改めて。
雪花・ヒールです。
日本には大好きな兄さんと一緒に来たの。
よろしくお願いします、Mr.ヒズリ。』



『こちらこそ。
ジムが見つけ出した歌姫だ、期待に応えてくれると信じてるよ、可愛いお嬢さん。』



にっこり笑って握手を交わすと、“雪花”は暫くクーの顔を見つめてから、う~ん、と唸った後、もう一度クスリと笑った。



『…Mr.ってドコか兄さんに似てる気がするわ。
でもやっぱり兄さん以上に最高なオトコはいないけどね。
兄さんは遠からずMr.を超える俳優になるオトコなの、憶えておいてね?』



今はアタシだけの最高のオトコよ、と悪戯っぽく首を傾げて見せる雪花に、クーの役者魂が沸々と沸き上がっていった。



(…暫く会わないうちに随分と良い瞳をするようになったじゃないか。
いいぞキョーコ、この勝負、受けて立ってやる。
どれだけ成長したのか見せて貰おうじゃないか?)



(…流石は先生、咄嗟のアドリブにも動じない…。
ここはドーンと全力で胸をお借りしますねっ!!)



笑顔で向き合う二人を何の違和感も無しに見ていたライアンと菅は取り敢えず挨拶がきちんと済んだ事に胸を撫で下ろした。



『彼、スガさんっていって歌手部門担当のLMEの社員さん。
テーマソングの収録日の調整はライアンさんとスガさんがやってくれるんでしょ?
わざわざMr.クーがアメリカから来てくれたんだし、いる間に収録済ませられないかしら。
ねぇボス、アタシその方がいいと思うの。』



だから調整ヨロシクね、アタシは兄さんのトコに帰ってるからとローリィに言い放ち、雪花はもう一度目の前のクーを見上げる。



『ゴメンなさいMr.。
アタシのだぁい好きな兄さんが待ってるから、アタシもう行かなきゃ。
次の機会を楽しみにしてますネ。』



バイバイと手を振りながらウィンクしてその場を辞そうとする雪花に、クーがポケットから取り出したUSBを投げ渡した。



『待ちなさい。
契約も無事済ませた様だし、これを渡しておこう。
例の主題歌の楽譜と楽曲の入ったUSBだ。
出来るだけ早く覚えておくといい。
歌詞は英語しか入ってないがな。』



『Thank You、Mr.。
やるからには精一杯、やらせて頂くわ。
日本語の歌詞は…付けるなら早めによろしくね、ボス♪
じゃあアタシ、ホントにもう行くわよ?
…次にお会いするのはレコーディングになるかしら。
これで失礼しますね、Mr.ヒズリ。』



軽くペコッと頭を下げると再び踵を返した少女の背に、クーは一言投げ掛けた。



『楽しみにしてるよ、“雪花”。
それから私の事はもっと気軽に呼んでくれ。
そうだな…“クー”で構わないよ?』



振り返った“雪花”に悪戯っぽい笑みを見せたクーに、“雪花”も負けてはいなかった。


クスクスと愉しそうに笑うと、再度ウィンクに投げキッス、更に手をひらひらさせてこんな言葉を残して去って行ったのだから。



『訂正するわ、Mr.。
貴方、兄さんよりも“パパ”、って感じね。
次はデートしましょうねクー、パ・パ♪』



パタン、と音を立てて閉まった後の社長室に残されたのは、唖然とする菅とライアン、抱腹絶倒の大爆笑したいのを必死に堪えてポーカーフェイスを死守しつつも堪えきれず頬の筋肉がひくついているローリィとクー、感嘆に値する無表情をキープした秘書の5人であった。



時を措かずにでっぷりオヤジのジムがヒョコっと顔を出し、『歌姫行っちゃったけどいいの?』と訊ねてきたのを境に、秘書を除く4人は気を取り直し改めてジムを交えて5人で細かい打ち合わせを始めたのであった。



一方社長室を後にした雪花(キョーコ)はというと。


決して他者の耳目に触れる事のない女子トイレに雪花のスタイルを崩す事なく速足で駆け込み、鍵を掛け終わるやいなや口から漏れてしまうだろう盛大な溜め息を、入ってきた者に聞かれないよう両手で口を抑えしゃがみ込んでいた。



(な、何とかしのいだけどび、びっくりしたぁああっっっ~!!
まさか先生がお見えになるなんて思ってなかった!!
…あのアドリブで合格点貰えるかな…?
お芝居抜きでお会い出来る時間があればいいんだけど。
あぁ、直接会ってさっきの演技についての指導をしていただければ…。(*´-`)
…はっ!!(゜ロ゜;
い、いけないわキョーコ!!
今の私は“雪花”!!
兄さんを常に一番に考えなくては!!)



素早く“雪花”の意識を取り戻したキョーコは慌てる素振りも見せずに女子トイレを後にし、今度こそ“カイン”のいるだろう撮影スタジオに向かって歩き始めた。



そして再び視点は替わって社長室。



無事契約が交わされ、映画のワールドプレミアも迫りつつある以上、スケジュールは急ピッチで組む必要に迫られ、ハリウッド・LMEタッグを組んでの《歌手・セツカ》プラン始動の為に臨時マネージャーも付けられることが決まった。


とにかく時間がないのである。


あーでもないこーでもないとセツカのタイトすぎるスケジュールがおっさんズによって勝手に組まれていったのであった。












…師匠と弟子のアドリブはまず及第点ですかね。


この後は(…というか全部だけど)あくまでもスケジュールとか収録とかその他諸々想像で書いてますから、ツッコミはソフトにお願いします。(笑)


ではまた次回♪