「…ちょっと…貴方はこの後仕事無いのかも知れないけどね?
私はまだまだ仕事が詰まってんの。
暇じゃないの。
手を離してくれないと仕事行けないでしょ!?
何か用が有るならさっさと済ませてくれない?
…と言っても精々5分が限度なんだけど…それ以上掛かるような用事なら事務所まで来てもらわないと時間作れないわよ?」



嘗ては顔を見れば噛み付いてきたキョーコが、何の感情も見せることなく淡々と自分と接していることに尚は焦りを覚えていた。


実際自分は彼女に会って何を言おうとしていたのだろう。


ある日突然海外留学し日本から居なくなった幼馴染みは、僅か2年の間に自分など足元にも及ばぬ程飛躍していて、しかも世界各国のセレブや大スターからもラブコールを受ける、今や日本を代表する大和撫子に成長して帰って来たのだ。


ハリウッドで磨きを懸けた演技力と、そしてあちらで花開いた美しさと才能とを引っ提げて。



腕を掴んだまま何も口にしようとしない幼馴染みにキョーコは困惑を隠しきれなかったが、尚の後ろから漸く追い付いてきたマネージャーらしき男が慌ててキョーコの腕を掴む尚の手に気付いて引き剥がした。



「済みませんっ、LMEの京子さんですよね!?
うちの尚がご迷惑を…!!」



「いえ、怪我はしてませんから大丈夫です。
幼馴染みですから彼の性格はそれなりに把握してますし。
あの…失礼ですが貴方は?」



漸く離された尚と京子の間にアカトキ関係者らしき男と京子のマネージャーが入る形で間を置かれた状態での奇妙な自己紹介が行われた。



「京子、ここは私が…。
 失礼しました、私LME所属女優、【京子】のサブマネージャーを務めております、笠井と申します。
不躾かとは思いますがお名刺頂戴できますでしょうか。
何分にも京子はこの後のスケジュールが詰まっておりまして、私の直属上司であるチーフマネージャーにも報告せねばなりません。
そちらの不破さんには何かご用がおありのご様子ですし、改めて事務所に連絡頂ければそちらで対応させて頂きますので…。」



この場はご容赦くださいと頭を下げる京子のマネージャーに、謝らなければならないのはこちらの方だと尚の横にいた男もまた頭を下げた。



「私はアカトキエージェンシーの不破 尚担当マネージャーをしております…」



差し出された名刺を受け取ると、京子とマネージャーの二人は頷き合って本当に間に合わなくなるのでこれで失礼しますと一礼し、殆ど駆け足でその場を去っていった。



残された尚はあまりの呆気なさに自分がどう振る舞うべきか判らず困惑しきってただ呆然と京子を見送っていた。



「…ま、揉め事起こさずに済んで良かったよ。
何か話したい事、あったんだろ?
ちゃんと頭整理出来たら、アポ取ってやるから言うんだぞ。
尤も相手はあの【京子】さんだ、直ぐにって訳にはいかないけどな。」



「…アイツ…誰だ?」



呆然とした顔で尚が呟いた一言に、今度はマネージャーが唖然とした。



「はぁっ!?
何言ってんだお前。
さっきまで腕掴んでおきながらボケてんじゃないぞ!?
留学中にハリウッドで大成功し、今や日本を代表する若手女優に成長を遂げたLMEの【京子】さんだろうが!!
まさかとは思うが人違いで腕掴んじまったとか言わないだろうな?」



「…アイツ…俺を前にして何の感情も見せなかった。
俺の知ってるキョーコは…アイツは、会えば必ず激しい感情をぶつけてくるヤツだったんだ。
それなのに…。」



「…お前が最後に京子さんに会ったの、留学前だろう?
2年以上も経ってるし、第一もう二十歳越えた大人だ。
会った途端に突っ掛かるなんて馬鹿な真似、いい大人のすることじゃない。
対応が違って当たり前だろうが。
そこがアメリカで成長した彼女とお前の差じゃないか?
…ほらもう行くぞ?
さっきも言ったけど、何か話したい事が有るなら、ちゃんと頭整理して、アポ取って、穏便にしろ。」



溜め息交じりに京子の対応を解読してやったマネージャーは、時間は掛かるがちゃんと手続きは踏んでやるともう一度重ねて言い、尚は半ばぼんやりとした頭で彼の言葉に頷くとキョーコとは別の方角に向かって歩き出した。




…しかし尚が再び幼馴染みに見(まみ)えるのは、それから間もなく海を挟んだ男と京子との衛星生中継による衝撃的超熱愛会見が大々的に行われたのち多忙を窮めた京子のスケジュールが僅かに空いた、なんと3ヶ月以上も経ってからとなる。










結局ズレた幼馴染みは愛情の正反対の感情を見せられただけに終わりました。(^_^;)



ちなみにうちの京子たんにはマネージャーが二人付きです。(笑)


チーフが和泉さんでその下に有里子ちゃん設定で♪(^-^)


マネージャーの座争奪戦の結果こうなったって事で。



更に尚のマネージャーも祥子さんから男性に!!



手綱を引ききれない祥子さんに業を煮やした上司によって異動させられた設定です。(でも名無しのゴンベさん。)