想いを歌声に乗せて(2)
---歌声は蝶の羽ばたき---
「…とりあえずはだな、クーの奴が返事を寄越すのを待つしかねぇんだ。
今日のところは…。」
帰っていいぞと言おうとしたローリィの言葉を遮る様に社長室のデスクトップパソコンが着信を告げてきた。
「…早いなアイツ。
おー、やけに返事が早いじゃねー…
『ボスっ、こっちのクルーのジムが見つけた歌姫がボスのトコの娘(コ)ってのは本当かっ!?』
……せめてこっちが話し終わってから喋れやクーよ。」
ネット経由のTV電話で画面一杯のどアップで叫んでいたクーに、日頃とは全く真逆な冷静なテンションで返すローリィの姿がそこにあった。
「…落ち着けや、確かにお前の関係者らしいな、あのジムとかいうアメリカ人。
んで、お前歌聴いただけでどんな娘(の)が歌ってたかは知らないのか?
もしかして。」
『あ、あぁ、ジムの話じゃ動画撮るには間に合わなかったと…。
彼から聞いた話じゃ歌声とはまるで印象の違う金髪ピンクメッシュの美少女だったと…。』
「その彼女なら此処に居るぞ。
おーい、ちょっとこっち来いや。
ほれ、挨拶したいだろ?」
「はっ、はいっ!!
あっ、あの、ご無沙汰しております!!
お元気でいらっしゃいますか?
先生!!」
画面越しに見惚れるお辞儀をするピンクメッシュの金髪美少女に、クーの目が点になった。
『その仕草その口調…まさかキョーコなのかっ!?
い、いやそれよりも何故先生なのだっ!!
お父さんと呼べと言ってるだろうに!!』
早速論点の擦れ捲っているクーを目の前に、今度は雪花に扮したキョーコの方が逆に目が点になっていた。
「すすすすみませんっっ!!
つい出てしまいました…っ、お、お、おとう…さ…ん?」
「…最後に“?”は要らんが…まあいい。
画面越しで残念だが元気そうで何よりだ。
あぁ、あの歌声はキョーコのものだったのか!!
天の配剤を心から神に感謝したいものだな!!」
これこそ神が与えたもうた運命に違いない、主題歌を歌えるのはお前だけだと捲し立てるクーに口を挟める隙はまるでなく、キョーコはあうあうと口をパクパクさせるだけで何も言葉を返す事が出来ずにモニターの前で藻掻いていた。
「………あ~、とにかく落ち着けクーよ。
最上くんが困惑しとるし、話を進めようにもこれじゃ埒があかん。
話はジムって奴から詳しく訊いた上で詳細を詰めていいな?」
何かしらの契約を結ぶならそのクルーを代理人扱いするからなと言い含め、興奮冷めやらぬクーとの通話を一方的にぶっ千切ったローリィは盛大な溜め息を吐いた。
「……やれやれ。
んで?
詳細をお前さんたちサイドからの目線で話して貰おうか。」
ローリィのその言葉にカインと雪花の姿をした蓮とキョーコは困惑した様子で顔を見合せ、ソファーに座り直して事情を説明し始めた。
「……何しろいきなりだったので、あのジムさんて方物凄い興奮していて…正直何を言われているのか始めは分からなかったんです。」
キョーコの言葉に頷きながら蓮が話を繋ぐ。
「俺と最上さんが木陰で休憩していたところに飛び込んで来たんですよ、彼。
Mr.ヒズリの名を出して余りに騒ぐので事務所で待つように言いかけた所でスタジオの警備員が駆けつけて来て…。」
「その時や~らかくて気持ちい~い太ももに頭を載っけて堪能していた蓮を膝枕したまま唄っていた最上君の歌声をあのジムが録音、ネット経由で海を渡り、海の向こうは大騒ぎ…という訳か。
とんだバタフライ現象だな。」
せっかく気持ちよく膝枕されてたのにぶち壊しにされて残念だったよなとニヤケ笑いを向けるローリィに対しセクハラ発言止めてくださいとしれっと流す蓮。
キョーコは頭の中で[破廉恥よぉ~っっ!!]と絶叫しつつこれまた頭の中だけで部屋中のたうち回って、実際はソファーに座ったまま縮こまるようにして茹でダコと化していた。
「…ん、まぁ事態は呑み込めた。
で、どうする?
あのジムの様子とクーの画面越しの様子とを鑑みるに、あっちはかなり切羽詰まってると見ていいな。
この話、受けるのか?」
どうする最上君と先程までのからかう様な態度は何処へ行ったと思わせる冷静沈着なローリィの様子に、キョーコはあぁこの人はやはりLMEのトップに君臨する人なのだなと再認識して姿勢を正し、意識を切り換えた。
「あの…受ける受けない以前に、私の歌を確かめなくていいんでしょうか?
この中で私が歌っているのを聴いたのは敦賀さんだけなんですけど…。
しかも子守唄レベルですし。
歌手部門の方のご意見も伺いませんと私には判断出来かねる事態かと思うのですが…。」
キョーコの言い分も尤もだと首肯したローリィは早速控えていた秘書に担当するべき歌手部門の社員を呼び出すように告げた。
ふふふ…長くなるよこの話。(;^_^A