想いを歌声に乗せて(3)



----アブナイ兄とアヤシイ妹----





歌手部門の社員が社長室まで呼び出されローリィの秘書から事情を聞いている間に、ローリィとカインに扮している蓮と雪花に化けているキョーコの3人で決めた事が幾つかあった。



歌手としてのGOサインが出た場合、“京子”ではなく“雪花”として契約するということ。


歌手デビューするからにはいずれは公表しなければならないだろうが、それはカイン=蓮であったと公表する時がきたらでいいだろうということ。



そこまでの話が纏まったところで、状況を理解した歌手部門社員がニコニコしながら握手を求めてきたので、“京子”か“雪花”か迷った挙げ句、キョーコは“雪花”として挨拶を交わしていた。



「…ヨロシク。」



「あ、あの、そちらの方は…。」



“雪花”の後ろで睨みを利かす黒づくめの大男にびくつきながら自分の一番上の上司にあたるローリィに視線を向けた社員に、ローリィは苦笑を洩らした。



「…おいカイン。
妹が可愛いからって近付く野郎を片っ端から威嚇するんじゃねぇ。
悪いな、こいつはその娘(コ)…“雪花・ヒール”の兄貴で“カイン・ヒール”だ。
事情は話してあるんだが、理解はしてても納得はしてないらしくてな、近付く野郎を矢鱈と威嚇するんだよ。」



ローリィの言い様から社員にも正体を伏せるつもりなのだと判断したキョーコは、徹頭徹尾雪花で接することに決めた。



「んもう、兄さん?
さっきボスが言ったじゃないの。
このヒトはボスの部下だから、威嚇しちゃダメなのよ?」



「…お前が見つめるのは俺だけでいい。」



「あら、アタシだってこの瞳に映すのは兄さん以外要らないわ?
…でもボスから言われちゃシカタナイじゃない?
アタシだって兄さんが仕事の時はすっごいガマンしてるの。
だから兄さんもガマン、してチョウダイ、ね?」


「…セツ…。」



「アタシは兄さんさえ居ればい・い・の。
…分かるでしょ?」



「……ああ。」



「…………。
あ、あの…社長…?」



兄妹とは思えぬいちゃいちゃベタベタっぷりに社員の青年は更なる困惑を抱えて縋るような眼差しをローリィに向けた。



「…お前らいい加減にしろ。
菅が困っとるだろうが。
紹介するぞ?
歌手部門担当の菅 義仁(スガ ヨシヒト)だ。
見た目若いが耳は確かだしな、何より先月結婚したばかりの新婚ホヤホヤだ!!」



自分の既婚歴が一体何の役に立つのかと菅がツッコミを入れたいのを我慢しながらチラリとローリィを見たあと二人に視線を戻すと、少女は変わらないが視線が物騒窮まり無かった魔犬のような大男から剣呑な空気が若干だが和らいだ。


…そう、本当に若干だが。


「……ボスがそう言うなら信じよう。
スガ、セツを傷付ける様な真似はしないことだ。
セツに何かあったら地の涯までも追いかけてやるから覚悟しろ。」



それでもまだ殺気の残る目で睨むカインをローリィは叱りつけると、漸く本題へと話を進めた。



「何度も言わせんな。
こいつはうちの大事な社員だ。
お前の妹に手ぇ出したりしねえから心配すんなっつーの!
全くちっとも話が進みゃしねえだろうが。
ほら、する事済まさなきゃ飯も食えねえんだぞ!!
サッサと用事済ませるぞ。」



状況は理解してるよなとローリィに問われた菅は先程秘書から聞いた話を思い出して躊躇いなく首肯した。



「地下のスタジオは先程の社長からのご指示で押さえてあります。
先ずは彼女の歌唱力を確かめないとその後の話は出来かねるものと思いますので、地下の音楽スタジオまで移動しましょうか。」



菅の言うことはもっともなので誰も反対することなくエレベーターで地下の音楽スタジオへと足を運んだが、音楽スタジオのスタッフにカインが再び睨みを利かせ、またしてもローリィから叱られるという出来事が繰り広げられる一幕は最早お約束であった。



スタジオでスタンバイしたキョーコは臆する事無く《雪花》として始めにジムが聴いたカインに膝枕した時の曲を唄った。


それは囁く様な子守唄であって、本来はスタジオで歌われるような曲ではないので、菅に他の曲も歌ってみてくれと言われるまま、《雪花》は出された曲名で知っているものをジャンルを問わず歌ってみせた。


菅は知らないが元々俳優養成所に所属するキョーコである。


声量は言わずもがな、申し分なし。


ミュージカルの勉強も俳優養成所としては当たり前にこなしている、当然ボイストレーニングも授業内容に含まれているときて、成績優秀なキョーコには音程のブレも全くない。


表向き日系イギリス人ということになっているので英語ペラペラ。


…というか、歌ったのは全て英語の曲ばかりだったのだが。



「……雪花くんと呼ばせてもらうね。
君は日本語でも問題なく歌えるかな?
…社長、雪花くんには歌手として活動するには申し分ない歌唱力があると私は判断します。
  ビジュアルも問題ないですし、ウチでデビューするなら日本語でも歌って欲しいと思いますがいかがですか?」



ブースの中から頷く雪花を見ながらの菅の言葉にローリィは頷き、真横に立つ不満そうなカインを完無視で満足気に親指を立ててGOサインを出した。











遂にキョーコちゃんが雪花として歌手デビュー決定です!!


ま、本人は菅さんの言葉に困惑しまくりでしょうが。(笑)


(ビジュアル申し分無しって、やっぱりセッちゃんだからよね?)とか顔には出さずクールに決めながら。


実は頭が渦潮状態とみた( ^∀^)



追記


送信ミスか理由は不明ですが、(2)がブッとんでました!!


UPし直しましたのでよろしくお願いします。m(__)m


私信になりますがご指摘下さいましてありがとうございました。