数日後。


セバスチャンの言った通り芸能界におけるあらゆるジャンルのランキングが発表された。



しかしセバスチャンが言っていた『抱きたい女』の項目は社会的に不適切であるとの観点から発表される事はなく、代わりに様々な項目が増やされていた。



『着物が似合う芸能人』、『朝食を作って欲しい芸能人』
『大和撫子が似合いそうな芸能人』


…等々。


勿論定番の『お嫁さんにしたい』『妹にしたい』『娘にしたい』『姉にしたい』。



京子はそのランキングをほぼ総ナメにしたのである。



当然そのネタを餌に京子からコメントをもぎ取ろうと目論んでいたマスコミ各社があの手この手で包囲網を敷いたのだが、相手はあの奇人…もとい大物が仕切る芸能事務所所属の女優。



下手に手を出すと痛い目を見るのは分かりきっていたマスコミは、共同戦線を張って直接ローリィに交渉し、何とか合同記者会見を1回だけ開いて貰うところまでこぎ着けた。



時間は今夜。



「しゃしゃ社長さぁんん~っっ!!
わわわ私に何をどう答えろと仰るんですかぁ~!?」



パニックが予想されるためにその日1日事務所に缶詰状態のキョーコは、社長室でローリィと向き合って半泣きになっていた。



「何を慌てる事がある?
ランキング1位になったものに対してのコメントだけしてりゃあいいんだ、心配するようなこたぁねえよ。
海の向こうのあの野郎にゃ、ネットで事後報告の記者会見見るのが精一杯だから文句言えねぇし?
一応裏にセバスチャン待機してるから、何かあれば対応出来るし心配するな。
どどーんと構えて訊かれた事に答えりゃいいさ。
別に隠し立てするようなモンもねぇしな?」



選んでくれた皆さんへの感謝の気持ちでも述べてこいやと社長室を追い出されたキョーコは、ウキウキと待機していたテンに散々弄くり倒されて、半ば魂が抜けた状態で記者会見場に向かうのであった。



〈心細いよぉ…声が聞きたいなぁ…。〉


堪らず先導するセバスチャンに5分だけと頼み込み、裏まで持っていこうと提げていたバッグからスマートフォンを取り出した。



〈…今の時間なら大丈夫かな。〉



「………もしもし、久遠さん?」



『キョーコ!?
  嬉しいな、直接君の声が聞けるなんて!!
  仕事の時間じゃないの!?
  …今、話してて大丈夫?』



顔が見られたなら恐らくは満面の笑みを浮かべた後に困惑しているだろう事が想像できる海の向こうの恋人の声音に、キョーコの心がほんの少し軽くなった。



「5分だけ時間貰いました。
  久遠さんこそ大丈夫ですか?」



『大丈夫だよ。
  …本当なら一晩中でも話していたいくらいだけどね。
  やっぱりメールじゃ足りないなぁ。』



「久遠さんたら…。」




クスクス笑いながら他愛ない話をした甘い時間はあっと言う間に過ぎ去り、そろそろ時間だと合図するセバスチャンに頷いたキョーコが電話を切るための言葉を口にした。



「ありがとう久遠さん。
  久遠さんと話せたから気持ちが少し楽になったわ。
  また夜にメールするし、時間合わせて電話もするね?
  これから記者会見だから頑張ってくるね。」



『記者会見?
  何かあるの?』



「大したものじゃないの。
  …あ、もう行かなくちゃ。
  あ、あのね、久遠さん…。
  ………大好きです。
  …またね。」



『…………っっ!!』



彼を目の前にしたら恥ずかしくてなかなか言えない言葉をキョーコは思いきって言い残し、久遠が息を呑んでいる間に通話ボタンを切った。


それだけでキョーコの心は一気に凪いで、記者会見場に迷いなく進む事が出来た。




《お待たせ致しました。
  これより弊社所属、京子の記者会見を行いたいと思います。
  質問は通常のルールに則り社名、氏名を名乗った上でお願い致します。
  尚(なお)、不適切と思われる質問が為された場合、後程厳正に対処させて頂きますのでよろしくお願いいたします。》



司会進行がそう言い終わると、用意された雛壇の真ん中に見事にドレスアップした京子が優雅な足取りで現れた。




「…本日はお忙しい中、私の為にこんなに沢山の皆さまにご足労頂きましてありがとうございます。
至らない部分はあるかと存じますが、精一杯お応えしたいと思いますので宜しくお願いいたします。」


これまた優美な仕草で一礼する、看板に偽り無しの大和撫子に、報道陣からは感嘆の溜め息が洩れていた。



《それでは早速質問をお願いいたします。》



司会者のその言葉を皮切りに、京子には矢継ぎ早に質問が投げ掛けられたが、京子は誠実に一つ一つ淀みなく応じていった。



「□○社の△◎です。
数々のランキングを総なめにした京子さんから見て、貴女のお眼鏡に敵う男性は数少ないと思われますが、その心を射止める男性はまだいらっしゃいませんか?」



その質問に、京子の脳裏に久遠の笑顔が過り、「えっ…。」と一瞬でキョーコに戻って頬を朱く染めてしまった。



それを目敏いマスコミ陣が見逃す筈もなく、会場は一気に騒然となった。











さあ、うちでお馴染み記者会見♪



更新おサボりごめんなさい。m(__)m


書き溜まり次第upの自転車操業です。(-_-;)