京子がファンの集いの内容に目を向けると、そこには意外なまでの人数と確保された会場が明記されていた。



「…あ、あの社長さん…これ記載ミスですか?
どう見てもファンの集いを開催する場所には思えませんし、この人数も…。」



狼狽える京子に、ローリィは至極真面目な面構えで記載ミスでない事を告げた。



「そのリストに載っているファンクラブ会員の皆さんは、間違いなく君の安寧な電車通勤を影から支え続けてくれていた方々だ。
協力してくれたお二人の力もあって、まず洩れは無い筈だ。
ファンの集いの内容だが、難しく考える必要は無いぞ?
いつものグレイトフルパーティーをファンの皆様の為に開くだけだと思えば良い。
そのつもりでこちらも準備を進めているからな。
あぁ、一つ追加で頼まれてくれ。
協力してくれたお二人の為に記念の品を用意しておきたいんでな…。」



それはもう愉しげにてきぱきとイベントの打ち合わせを進めていくローリィに対し、自身初のファンの集いの事や、今までの生活が激変する事態に陥って混乱の極みで頭を真っ白にした京子は、どうにか打ち合わせを終えるとふらふらとラブミー部室に戻っていった。




「…キョーコちゃん?
大丈夫?具合でも悪いの?」



空き時間の合間にラブミー部室に何かしら理由を付けて立ち寄るのが最早習慣となっている、超多忙な先輩大俳優とそのマネージャーは、ふらつく足取りで入ってきたキョーコを見て立ち上がった。



「あ…、す、すいません。
  体調が悪い訳ではありませんので…ご心配をお掛けして申し訳ありません。」



「…何かあったの?
良かったら話してくれるかな。」



先輩の優しい口調に気持ちが落ち着いてきたキョーコは、社と蓮に改めて座ってもらい時間があるか確認した後、コーヒーを用意しながらローリィに呼び出された事の顛末をかいつまんで話したのだった…が。



「………はぁ。」



蓮は何とも言えない表情を浮かべキョーコの話に何の感想も述べる事無く、次の仕事があるからと詫びて、ラブミー部室を出ていってしまった。



社も慌ててコーヒーご馳走様と蓮の後を追って行ってしまった。



残されたのは報告をさせられるだけさせられて、何の意見も述べて貰う事も出来ず放り出されポカンとするキョーコだけであった。




「…次の仕事まで少しあるからな、何とか立て直せよ?」



追い付いてきた社に言われた意味を計りかねて何の事かと訊き返そうとした蓮は、言わずとも解るとばかりに続けられた社の言葉に目一杯めり込んだ。



「…キョーコちゃんの通勤事情を把握してなかった事がショックなのやら、それがとんでもない守護者という伏兵というか馬の骨だらけな状況を産み出していたのやら、結果的にファンを増大させまくっていたとか、知らなかった事がてんこ盛りでボコボコに凹んでて色々とぐだぐだなのはわかるんだがな。
この後の仕事に響くから“敦賀 蓮”の顔は保ってくれよ?
具体策を立てたいなら何とか時間を作れる様にするけど、どうする?」



有能で切れ者のマネージャーが良き理解者であることを、心底感謝しながら蓮はただ黙って頭を下げたのだった…。




ファンが見守ってくれていたからこその安全な通勤だと知ってからのキョーコは、周囲の気配に気を付けつつ、感謝の気持ちを込めてより一層笑顔で電車に乗るようになった。


それは名も知らぬ不特定多数の守護者達への感謝の気持ちが自然に現れたものだったのだが、それが更に見知らぬファンを増やす結果となる。




そして迎えたファンの集い当日。



事情を知らない守護者面々は、ダミーの会場からスタッフによって移動させられたのだが、あまりの会場の大きさと人数の多さに、これがただのファンクラブのオフ会ではないことに直ぐに気付いた。



[ようこそお越し下さいました。
皆様既にお気付きでしょうが、今回のオフ会はただのオフ会ではありません。
先ずは皆様の為に細(ささ)やかではありますがご用意致しました料理をお召し上がり下さい。]



アナウンスで告げられた料理は、立食形式で用意されていてもとてもではないが細(ささ)やかなものなどではなく、きめ細かい配慮がなされた品々ばかりであった。



食品アレルギーに配慮して食材を明記してあるのは勿論の事、ダイエット食や塩分控え目食としてカロリー表示や塩分表示も為され、宗教にまで配慮した料理まで用意されていた。



しかも本来ならばそんな料理が温かい物は温かく、冷たい物は冷たく出せる場所でもない筈の巨大倉庫をパーティー会場に於いて最高の状態に保たれているのだ。



困惑しきりの守護者達であったが、受付で実は主催者が京子の所属事務所、LMEであると知り、更に受付でにはオフ会で知り合っていた男女が立っていた事もあり、とどめに事務所からの振る舞いによるものなので費用は全て事務所持ちと聞いて安心して振る舞われた食事に手を付け、あまりの美味さに争奪戦をあちこちで巻き起こしていた。




そうして守護者達が腹を程好く満たし終えた頃、暗転した会場の中心に据えられてBGMを流していたステージにスポットが当てられ、オフ会に参加する筈のない1人の女性の姿に、守護者全員が釘付けになったのである。











(;^_^A
かの大先輩サマはヘタレたまんまほったらかしです。
次回に持ち越しで♪(笑)
さ~、どう絡ませよう。