「いや、今夜はプロデューサーに付き合って来たから居ないんだよな。
この店ってあそこのパーティションからこっちに案内するの、業界人って決まってるし。
アンタも業界人だろ?」
ウェイターに飲み物を頼み、許してもいないのににじりよってくるいやらしい目をしたこの男は、本当に自分が16年一緒に育った幼なじみだと気付いていないらしい。
「あらあら…大事な仕事仲間放って来ちゃったの?
ダメよ、プロデューサーさんの機嫌を損ねるような真似しちゃ。
今日はマネージャーさんもいないのかしら?
トップアーティストの不破 尚さん?」
頬杖を突いて愉悦を籠めた眼差しで尚を見遣ると、からかわれているとも思わないのか顔を朱くしてテーブルに着いていた手をいきなり握ってきた。
「…なぁ、あんた…名前は?」
その言葉にキョーコは本気で呆れ返った。
この男は本当に分からなかったのだ。
「…あら、私が誰だか分からないの…?」
話している間もちびちび飲んでいたキョーコは酔いが回って更に艶を増し、しどけない仕草で尚だけでなく周りに居る男たちの目も釘付けにした。
「…会った事…あるのか…?」
ゴクリと生唾を飲み込みながら熱を込めた眼差しで尚が見詰めていると、真後ろから嘲るような笑い声が響いてきた。
ムッとした尚が振り返ると、髪形と眼鏡で雰囲気こそ変えているが誤魔化しようのない身長の男が冷ややかな視線でこちらを見下ろしていた。
「…お帰りなさい。
ちょっと遅いからこのおバカさんからかっちゃったわ。
聞いてたんでしょ?
今の言葉…呆れちゃうわよね、久遠。」
重ねられていた尚の手の下からスルリと手を引き抜き、流れるような仕草で立ち上がったキョーコは蓮の腕の中に飛び込み、その腰にギュッとしがみついた。
蓮もそんなキョーコの背中に手を回し、つむじに口付けると本当だねと頷いた。
「君が魅力的過ぎるのかそれとも彼に余程見る目が無いのか…両方かな?」
冷ややかな視線で尚を見た後、キョーコの髪を撫でながら見た事が無いほど柔らかな微笑みをキョーコに向ける蓮に、ムカムカしながら尚が噛みついた。
「~っ何だよその言い草はっっ!!」
「…だって事実だろう?
彼女が誰か分からないなんて、君に見る目が無いのが丸分かりじゃないか?
16年もすぐ側にいて、ほとんど一緒に育った幼なじみの事も分からないなんてさ。」
蓮のその言葉に尚は愕然とした。
それが事実なら、間違いなく自分の見る目が無いのが証明されたようなものなのだから。
信じられない気持ちでいる尚に、蓮の追い討ちの一言が投げつけられた。
「…クス…本当にこの娘(コ)はキョーコだよ?
あぁそうだ、君に見る目が無かったのを感謝しなかった日はないよ。
君がキョーコの価値も魅力も分かってなかったお陰で、今キョーコの隣に俺が居られるんだからね。
…ねぇ、キョーコ?」
「ウフフ…。
そう言われればそうね。
ありがとショータロー、あの時ゴミみたいに捨ててくれて。
お陰で今、私はこれ以上ないくらい幸せな人生送ってるわ。
…ねぇ~久遠。
お家で飲み直しましょ?
折角連れてきて貰ったけど、邪魔が入って鬱陶しいんだもの…。
貴方と二人っきりがいいなぁ、私…。」
何の感情も感じられない目で尚に笑顔で礼を言い、蓮の胸に擦り寄る様に甘えるキョーコの息を呑むほどの艶かしさに、尚は自分の身体ががくがくするのを止められなかった。
「…そうだね、俺も君と二人っきりがいいな。
帰ろうか。
じゃあお先に、不破くん。
飲みすぎないようにね、おやすみ。」
自分にしがみついて離れないキョーコを抱き抱える様にして、蓮は優雅な足取りで店を後にした。
二人が去った後、一部始終を目撃した業界人からは失笑を買い、一般人がネット上で呟いた事から尚の不様な姿が報道されるに至る。
話が表沙汰になるにあたり、尚とキョーコが幼なじみであることも、尚がキョーコをゴミの様に捨てた事も明るみに出たのだが、それより蓮とキョーコの交際が発覚し、それをきっかけに堂々と交際宣言した二人が時を置かずに婚約した事の方が大きく取り上げられ、尚の社会的なダメージは最小限に抑えられた。
しかし蓮の傍らで艶やかに微笑むキョーコを見た人々は、若く未熟だったとはいえキョーコをゴミの様に捨てた尚の事を[人を見る力]“ミリョク”のない男だと揶揄したという。
男の“見力(ミリョク)”と女の魅力。
尚が自分に付けられた不名誉な称号を取り去る事が出来たかは、数年を待つことになったという。
end
何話になるか自分で予測つかなかったので、数字でカウント付けましたが、何とか前後編で収まりました。
あの騒動の後、キョーコちゃんと蓮さんがあまぁい一夜を過ごしたことは…言うまでもありませんものね♪
朱烙さん、ありすさん、こんなもんでよろしかったでしょうか?
お気に召して頂けるといいんですけどね~。
お持ち帰りも自由ですので、お任せします。
読んで下さってありがとうございました。
この店ってあそこのパーティションからこっちに案内するの、業界人って決まってるし。
アンタも業界人だろ?」
ウェイターに飲み物を頼み、許してもいないのににじりよってくるいやらしい目をしたこの男は、本当に自分が16年一緒に育った幼なじみだと気付いていないらしい。
「あらあら…大事な仕事仲間放って来ちゃったの?
ダメよ、プロデューサーさんの機嫌を損ねるような真似しちゃ。
今日はマネージャーさんもいないのかしら?
トップアーティストの不破 尚さん?」
頬杖を突いて愉悦を籠めた眼差しで尚を見遣ると、からかわれているとも思わないのか顔を朱くしてテーブルに着いていた手をいきなり握ってきた。
「…なぁ、あんた…名前は?」
その言葉にキョーコは本気で呆れ返った。
この男は本当に分からなかったのだ。
「…あら、私が誰だか分からないの…?」
話している間もちびちび飲んでいたキョーコは酔いが回って更に艶を増し、しどけない仕草で尚だけでなく周りに居る男たちの目も釘付けにした。
「…会った事…あるのか…?」
ゴクリと生唾を飲み込みながら熱を込めた眼差しで尚が見詰めていると、真後ろから嘲るような笑い声が響いてきた。
ムッとした尚が振り返ると、髪形と眼鏡で雰囲気こそ変えているが誤魔化しようのない身長の男が冷ややかな視線でこちらを見下ろしていた。
「…お帰りなさい。
ちょっと遅いからこのおバカさんからかっちゃったわ。
聞いてたんでしょ?
今の言葉…呆れちゃうわよね、久遠。」
重ねられていた尚の手の下からスルリと手を引き抜き、流れるような仕草で立ち上がったキョーコは蓮の腕の中に飛び込み、その腰にギュッとしがみついた。
蓮もそんなキョーコの背中に手を回し、つむじに口付けると本当だねと頷いた。
「君が魅力的過ぎるのかそれとも彼に余程見る目が無いのか…両方かな?」
冷ややかな視線で尚を見た後、キョーコの髪を撫でながら見た事が無いほど柔らかな微笑みをキョーコに向ける蓮に、ムカムカしながら尚が噛みついた。
「~っ何だよその言い草はっっ!!」
「…だって事実だろう?
彼女が誰か分からないなんて、君に見る目が無いのが丸分かりじゃないか?
16年もすぐ側にいて、ほとんど一緒に育った幼なじみの事も分からないなんてさ。」
蓮のその言葉に尚は愕然とした。
それが事実なら、間違いなく自分の見る目が無いのが証明されたようなものなのだから。
信じられない気持ちでいる尚に、蓮の追い討ちの一言が投げつけられた。
「…クス…本当にこの娘(コ)はキョーコだよ?
あぁそうだ、君に見る目が無かったのを感謝しなかった日はないよ。
君がキョーコの価値も魅力も分かってなかったお陰で、今キョーコの隣に俺が居られるんだからね。
…ねぇ、キョーコ?」
「ウフフ…。
そう言われればそうね。
ありがとショータロー、あの時ゴミみたいに捨ててくれて。
お陰で今、私はこれ以上ないくらい幸せな人生送ってるわ。
…ねぇ~久遠。
お家で飲み直しましょ?
折角連れてきて貰ったけど、邪魔が入って鬱陶しいんだもの…。
貴方と二人っきりがいいなぁ、私…。」
何の感情も感じられない目で尚に笑顔で礼を言い、蓮の胸に擦り寄る様に甘えるキョーコの息を呑むほどの艶かしさに、尚は自分の身体ががくがくするのを止められなかった。
「…そうだね、俺も君と二人っきりがいいな。
帰ろうか。
じゃあお先に、不破くん。
飲みすぎないようにね、おやすみ。」
自分にしがみついて離れないキョーコを抱き抱える様にして、蓮は優雅な足取りで店を後にした。
二人が去った後、一部始終を目撃した業界人からは失笑を買い、一般人がネット上で呟いた事から尚の不様な姿が報道されるに至る。
話が表沙汰になるにあたり、尚とキョーコが幼なじみであることも、尚がキョーコをゴミの様に捨てた事も明るみに出たのだが、それより蓮とキョーコの交際が発覚し、それをきっかけに堂々と交際宣言した二人が時を置かずに婚約した事の方が大きく取り上げられ、尚の社会的なダメージは最小限に抑えられた。
しかし蓮の傍らで艶やかに微笑むキョーコを見た人々は、若く未熟だったとはいえキョーコをゴミの様に捨てた尚の事を[人を見る力]“ミリョク”のない男だと揶揄したという。
男の“見力(ミリョク)”と女の魅力。
尚が自分に付けられた不名誉な称号を取り去る事が出来たかは、数年を待つことになったという。
end
何話になるか自分で予測つかなかったので、数字でカウント付けましたが、何とか前後編で収まりました。
あの騒動の後、キョーコちゃんと蓮さんがあまぁい一夜を過ごしたことは…言うまでもありませんものね♪
朱烙さん、ありすさん、こんなもんでよろしかったでしょうか?
お気に召して頂けるといいんですけどね~。
お持ち帰りも自由ですので、お任せします。
読んで下さってありがとうございました。