「…社長。
敦賀様のマネージャーの社様から、大至急お会いしたいと連絡が入っておりますが…。」


マネージャーがアポを取ってきたと聞いて、ローリィは首を傾げた。


以前クーが来日した時、頭にきていた蓮が直通電話を使ってアポを取った事はあったが、社経由でアポを取るなど常にない行動だった。


「…直接話すから回してくれ。」


秘書が言われた通り電話を繋ぐと、受話器から半泣きの社の声が聞こえてきた。

「…どうした社。」


『社長~!!
助けて下さいぃ~!!
  や、闇の国の蓮さんがぁ…。』


えぐえぐと泣き付く社のその一言で、ローリィには直ぐに察しが着いた。


「あ~、分かった分かった。
とにかく仕事終わったらうちに来いや。
奴は何とかしてやるから、な?」


社を宥めすかして電話を切ると、ローリィは蓮が見たら絶対に悪巧みしているとしか思えないだろう、にんまりとした笑みを浮かべたのだった…。


さて、本来なら22時上がりの筈の人気俳優はというと、あり得ない程のプレッシャーを爽やかな笑顔と優雅な物腰から醸し出し、巻きに巻きを重ねて更に1時間早く仕事を終わらせていた。

社はそんな蓮の後を追いかけながら監督や共演者、プロデューサーにカメラマン等々、あちこちに頭を下げまくっていた。

そうして言われた通り2人が社長宅の玄関前に立ったのは、本来ならばまだ仕事している筈の午後9時半の事だった。


「お待ちしておりました。
ご案内致します、此方へどうぞ。」


ピリピリした雰囲気を醸し出す蓮と、四方八方謝り続けぐったりした社を気に止める様子も無く、執事の青年は穏やかに迎え入れた。

「…お~、来たな?
…ご苦労だったな、社。
明日は何時の入りだ?」


無表情に近い蓮を一瞥して、社を労いながらローリィは翌日のスケジュールを確かめた。


「明日は少し遅めで…11時です。
蓮がしっかり仕事とプライベートは分けられるのは解っていますが、落ち着いて仕事をしてもらうためにも話の決着は着けていただかないと…。」


精神衛生上こっちの胃袋も持ちませんと言い残し、社はふらつく足取りで帰って行った。


社が去り、執事もお茶の支度をして下がっていった後、ローリィは吹かしていた煙草を灰皿に押し付けながら話を切り出した。


「珍しいな、お前が急ぎなのに直通を使わず社経由なのは。
何かあったのか?」


「…自分で連絡取れるってことを失念してただけです。
全く、なんて事を公共の電波で流してくれるんですか。
社長に報告が遅れたのは悪かったとは思いますけど、近々報告するつもりでいたんです!!」


「後で社にはちゃんと埋め合わせしろや…って、何を報告するつもりだ?」


ニヤニヤ嫌な笑みを浮かべつつ組んだ脚を組み換えるローリィに、蓮は〈判ってる癖に!!〉と内心罵っていた。


「…少し前から最上さん…キョーコと付き合ってるんですよ!!
やっと彼女が俺の気持ちを受け入れてくれて、これからって時に今日の番組の貴方の爆弾発言です!!
まだ公にしたくないってキョーコが言うから、我慢してこっそり馬の骨を裏から苦労して排除してるのに、あんな事社長が言ったら馬の骨を大量増産するじゃないですか!!」


どうしてくれるんですか、と言い募る蓮に、ローリィは悪びれもせずに言い放った。


「知らなかったんだからしゃーねぇだろ?」


〈絶対嘘だっ!!〉と思いつつ、そんな風に噛みつく事も出来ずに内心歯噛みする思いで蓮が黙り込むと、ローリィは手をひらひらさせながら告げた。


「第一お前こそ忘れてんじゃねぇか。
最上君は“愛し愛される心”を失っていたからラブミー部に居たんだぞ?
お前と付き合い始めたって事は、最上君がその心を取り戻したって事だろうが。
勿論最終チェックで直接訊いてみるが、問題なしと判断したなら彼女はラブミー部卒業ってことだ!!
遠慮は要らん、事務所も全力バックアップできるからな。
堂々と交際宣言だろうが婚約会見だろうが、出来ちゃった入籍報告だろうがやっちまって構わないぞ?」


あまりのローリィの物言いに、目が点になった芸能界指折りのいい男の姿がそこにあった。