パーキングに着くと見慣れない小振りな車がぽつんと置いてあった。



「この車…。」


ポソッと疑問にもならない程の呟きに、敦賀さん…カインは笑って答えた。


《日本語になってるよ?
…まぁいいけど。
ボスが君を名犬像の前に放り出してきたって言ってたから、変な虫に集(たか)られない内に回収する必要があったから…超特急でレンタルしてきたんだ。
いつもの車じゃ駐禁で捕まりそうだし、目立つの嫌だろうと思ったからね。
気に入らない?》


「いっ、いえ!
…というか私、置き去りのお菓子みたいな言われようですね。
虫が集るとか…そんなのあるわけ無いでしょうに。」


《…はぁ。
今の君は“サラ・ヒズリ”だよ?
しかも初デート設定で気合いを入れておしゃれしてメイクアップして。
集られない訳が無いんだよ。
やきもきする男心、もう少し理解して欲しいな。
 俺の大事な“サラ”。》


さりげなくキョーコに“サラ”であることを強調して、蓮も自らが“カイン”だと自らに言い聞かせた。


《ご、ごめんなさい。
でも貴方も分かってないわ、カイン?
私が見てるのは貴方だけ。
他の男(ヒト)なんて目に入る訳ないでしょ。》


“サラ”はラブミー部のキョーコなら絶対に出てきそうもない台詞を笑顔で言ってのける。

“カイン”としてそれに真正面から向き合いたいと蓮の役者の血が騒ぐ。

同時に男としても。


《…じゃ、行こうか。
海と山、どっちに行きたい?》


サラを車の助手席に座らせ、カインは少し窮屈そうに運転席に乗り込むと、準備をしてエンジンを掛けた。

《…え?
えっと…じゃあ山かな。》


キョトンとしながらも問いに答えると、カインはニッコリ笑って車を発進させた。


《了解。
途中で行き先に細かい希望が出たらいつでも言って?
行ける範囲で応えるからね。》


海の中とか湖の底とか宇宙はまた今度ね、とカインが付け足すと、サラもまたもちろん楽しみにしてるわ、と笑った。



他愛もない話をしながら高速道路を走り、カインがデートに選んだ場所は高原にあるアウトレットモールだった。


《~ん~♪
空気が美味しいね!!
気候も清々しいし、いいトコロね、カイン!!》


《気に入ったなら良かった。
結構走ったから疲れたんじゃないかな?
お腹減ってないかい?》


広々とした芝生のスペースをうきうきしながら走り回りそうなサラにカインは、そろそろ食事時だと声を掛けた。


《カインこそ運転しっぱなしだから疲れたでしょ?
ゴメンね?
お弁当用意できたら良かったのに…。》


シュンとするサラにカインは優しく笑いかけた。


《気にしないで?
楽しみは次の機会にとっておくよ。
俺は君とのデートに浮かれてて疲れなんか感じないからね。
…それよりサラ、お腹空かないの?》


腕時計を見ながらカインが首を傾げる。

俺は平気だけど君は?という様子で自分をみるカインに、サラが返事をしようと口を開いた瞬間、先に返事をしたモノがあった。


ぐぅう~っっ。

…サラのお腹が元気よく返事をしたのだった。



《《…………》》


一瞬脳の活動が停止した二人だったが、すぐに真っ赤になってサラが逃げ出した。


《~~~きゃあぁあぁ~~!!!!/////
嫌ぁ~!!恥ずかしいぃぃ~!!////》


サラ魂が抜けなかっただけ上出来だったが、行動は間違いなくキョーコのものだった。