「…ごちそうさまでした。
 やっぱり最上さんのご飯は美味しいね。
いつもありがとう。」


「喜んで頂けたならなによりです。
でも敦賀さん、3万円も食費に渡すんですもの。
  一体何食分作るのかと思っちゃいましたよ?」


「…俺って、食べる事自体あまり気にしてないから、いくら掛かるか分からなかったんだ。
  だからあのくらいあれば足りるかな、って…。」

食事の片付けも済んで、食後のコーヒーを飲みながらの穏やかな時間は、蓮の次の言葉で一気に消え失せた。



「ところで…そろそろ教えてくれるかな?
ブリッジロックの“光さん”との会話の意味。」


和やかな雰囲気は一気に吹き飛び、キョーコは笑顔も凍りついた。


「わわわ、忘れておられるものと…。」


「…忘れるわけないでしょ?
あんな大事な話を。
…俺ね、あのあと頭の中で整理してみたんだよ。
最上さんが、椹さんに報告しなきゃいけないような事があったにもかかわらず…あの光さんとこっそり何か隠してる、って事でいいのかな…?」


(ひ、ひいぃっっ!!
だ、大魔王降臨!?)

「どういう事なのか、具体的に話して貰うよ?
…ああ、もし言いたくなければ、一つだけ別の選択肢もあるけど…。
どっちにする?
俺としては後者を選んで欲しいかな…。」


「念の為にお伺いしますが、どうしても話したくない場合は、…後者を自動的に選択した事に…。」


「…なるね。
じゃあ選んで?
洗いざらい話すか、新しい秘め事を俺と作るか…。」


「あっ、新しい秘め事って!!??」


驚愕の選択肢に、俯き加減で話していたキョーコか、ばっと顔を上げたそこに…。


(いやぁあ~~!!
今度は夜の帝王がご降臨なされてるぅ~!!)


「話しますっ!!
洗いざらい、包み隠さず申し上げます!
ですから夜の帝王のご降臨はお許し下さいぃ~!!」


「…なんか意味はよく解らないけど、…話してくれるんだね?」


「は、はいっ!(チッ)
(…ん?何か今舌打ちが聞こえたような…。)」


土下座状態のキョーコには見えなかったが、間違いなく蓮は舌打ちをしていた。


「あ、あの、敦賀さん。
先にお願いしますが、この件は私たちの中では既に解決した事なんです。
ですから蒸し返すと折角仲良くなった天宮さんとの仲を壊してしまいかねません。
お願いですから天宮さんを責めたり、椹さんや社さんに報告なさらないと約束してください。」


「…解ったよ。
約束する。」


蓮が穏やかに笑って頷くと、キョーコもやっと安心したのか、隠し事を洗いざらい明かしたのだった。


「…以上です。
もう、天宮さんとも仲良くなれましたし、同じラブミー部員ですからわだかまりもありません!
敦賀さんにはいらぬ心配をおかけして申し訳ありませんでした。」



全て話し終えてすっきりとした顔のキョーコとは真逆に、怒りを堪える蓮がそこにいた。


(会えなかった間に、そんな危ない目に遭っていたなんて…!
そんな事も知らなかった自分が腹立たしいっ!
…何より彼女を守りたかった…それすら出来なかったのが悔しい。)



「…あの…。
敦賀さん…?」


下を向いた侭の蓮を心配して覗き込もうとしていたキョーコに気付き、蓮はその頬を両手で包んだ。


「…きちんと話してくれてありがとう。
もしまたこんな危ない事が起きたら、今度はちゃんと言うんだよ?
君は一人じゃない、俺が…みんながいるんだ。
何か困った事があったら、必ず最初に俺に相談して。
いいね?
君を大事に思ってるんだから、約束して。」


真剣な眼差しで言う蓮に、キョーコはコクコクと頷こうとしたが出来なかった。
頬を蓮が包んだ侭だったのだ。


「ん~~。」


散々キョーコがもがいて、やっと蓮はキョーコの頬から手を離してくれた。


「ああ、ごめんね。」


「いいえ、これで寧ろすっきりしました。
もう敦賀さんに隠し事なんてほとんど無いですから!」


「…って事はまだあるの?」


「い、いえ!
わ、私これで失礼しますっ!」


「送るよ。」


「いいえ、明日は朝がお早いとご自分で仰言ったじゃありませんか!
まだ電車もありますし、ご心配には及びません!」


「君もいい加減自覚しなさい。
女の子がこんな時間に暗い夜道を歩くなんて。
ましてや君は芸能人なんだから、電車でなんて危ないよ。」


キーを持って追い掛ける蓮に、ああ言えばこう言う、の掛け合いをする二人。


「平気です!
寧ろ敦賀さんに送って頂いたら今度こそ全部打ち明ける事に成り兼ねません!
私にはそっちの方が危険ですぅ~!」


「じゃあ君の話と引き換えに、俺の秘密も教えてあげるから。」


「ほぇ?」


「その代わり後戻り出来ないよ…?
覚悟はいいかい?」


「責任持てません~!!」



…彼らがお互いの事を語ったかは、二人だけの…ヒ・メ・ゴ・ト。









最後の方、少し長くなりすぎましたが、一応のオチは着きましたので完結。←脱兎