迫って来た影に、キョーコ本人よりも早く怨キョ達が反応した。


『久しぶりの娑婆だわ~♪』

『怒りのオーラが渦巻いてて、なぁんて心地いいのぉ~』


そんな怨キョ達の声が本体に届いたかはともかく、どす黒い気配にキョーコは勢い良く振り返った。


「やぁ、最上さん。」


いつも以上にキュラキュラと輝く笑顔で、にこやかに挨拶してくれた大先輩に、キョーコの顔は引き攣った。


(お、怒ってる~!?
今会ったばかりで怒られるような事してないわよね、私!)


「オ、オハヨウゴザイマス、敦賀サマ。
アノ、ナニカワタクシハマタ敦賀サマノイラツボヲツキマシタデショウカ?」


ぎくしゃくした喋り方なのは仕方ない。
キョーコは頭から怨キョ達が飛び出し、ダークな怒りオーラに嬉々として引き寄せられるのを必死で縛り付ける。


『なぁ~にぃ?
心地いい怒りオーラに近寄りたいわぁ~。
お願いおやび~ん、解放してぇ~♪』

『そうよね~♪
浄化されてばっかりの仲間の分まで味わわなくっちゃ~。』


…どうも聞こえてないらしい怨キョ達の声は放っといて、キョーコの頭の中は自分が何を持って蓮のイラツボを突いたのか、そればかりが渦巻いていた。


「…さっきの彼、誰?」


蓮のその一言でキョーコは全てを理解した。

聞かれてしまったのだと。

「あ、あ、あのっ!
あの人はタレント部の先輩でっ!
ブリッジロックというグループのリーダーの、石橋 光さんです!
同じタレント部ということもあって、良くして頂いてて…!」


「ふぅん…。」


なまじ口数が少ない分、恐怖感は倍増する。

(こっ、怖い~!)


「…名前だったんだ。
てっきり苗字が“光”なのかと思ってたよ。
ずいぶん仲がいいんだね。」


「あっ、あのっ!
ブリッジロックの皆さんは、苗字が全員“石橋さん”なんです!
区別するには名前でお呼びするのが一番なので…。」


「…あぁ、そういう事か。
じゃあそれはいいや。
もう一つの疑問に答えて貰おうかな。」


…大魔王には逆らえません。
逆らえませんが、悪あがきくらいしたっていいでしょう?


「ああああのっ!
敦賀さん、移動のお時間とかは大丈夫ですかっ?
この後のお仕事は!?」


「…大丈夫だよ。
この後はオフなんだ。
明日早朝のロケがあってね、社さんが早く上がらせてくれたんだよ。
…そんなに聞かれたくないの?」


だ、大魔王様が更にどす黒いオーラを~っっ!


「ももも申し訳ありません!
わたくしこれからまだ仕事が入っていますので、失礼させていただきますっ!」


「…晩御飯、作ってくれる?
明日早いし、少し疲れ気味だからしっかり食べておかないといけないよね…。
俺一人だと明日の昼ご飯まで食事抜いちゃうかもね…。」


「い、行かせて頂きます!
敦賀さんの食生活を見守るのは、最早私の使命です!」

(…怖い((゜Д゜ll))けど。)

「そう。じゃあ話もその時にね。
家で待ってるから、仕事が終わったら電話して?
迎えに行くから。」


「めめめ滅相もない!
 ちゃんと行きます!
逃げたりしませんからぁ~!」


「そう?
でも電話はしてね。
…それからはい、これ。
食費、預けておくね。
じゃあ家で待ってるから。」


「ちょっ…!!
ま、待って下さい!
敦賀さぁん~!!
3万円も食費だなんて、何日分の食費ですか~!」


長いコンパスで立ち去ってしまった大先輩の後ろ姿に、見当外れの声を掛けるキョーコであった…。










…やり繰り上手なキョーコちゃん、3万円渡されたら凄い日数分作っちゃいそうです。(笑)