「何やってんだよ、祥子さん。」

帽子とサングラスで顔が隠れているが、見る人が見れば気付く、その程度の変装。

「スカウトマンでもないのに、慣れない事するものじゃないわね。
でもスカウトしたくなっちゃう素材を見つけたら、声を掛けたくなってしまうのはこの業者に身を置く者の性(さが)かしらね。
残念だわ…。
LMEの関係者でなければもっと食い下がりたかったところなんだけど…。」

「何?あの子供連れ、LMEの関係者なのか?」

「そうみたいよ。
あの小さな女の子、LMEの社長の孫娘だそうよ。」

「へ~…。」

離れていく4人を目で追っていた尚は、たまたま振り返った背の高い方の少女と目が合った瞬間、背中を電流が走ったかのような衝撃を感じた。

(何だ!?)

思わず祥子が止めるのも聞かずに走り出して追い縋り、彼の少女の腕を掴むと力任せに振り返らせた。
息を呑む程の美少女。
華奢な腕は抜けるような白さで、驚きに見開かれた碧の瞳に赤みがかった長い金髪。

「あ…。」

何も言えずサラの腕を掴んだままの尚の手を、その上から怒りもあらわにクーが捩り上げた。



芸能人として多少変装しているとはいえ、騒ぎを起こすのはご法度であるが、そんな事は気にならなかった尚は、腕を捻り上げた男を睨みつけた。

「何だね君は。
私の娘に何か用か?」

クーが尋ねると、尚は掴まれていた腕を振り解きびっくりしてサラとクーを交互に見遣った。

「…あんたの…娘?」

聞き返してきた尚の後ろから、慌てて祥子が走って来た。

「何をしているの!
…すみません、私の連れが失礼をしました。」

追い付くなり謝っている祥子の横で未だ謝る事もせずにサラを見詰める尚の様子に、同行していたマリアの方が不快感をあらわにした。

「何ですの?
この方。
私のお客様に無礼を働いておきながら謝罪も出来ないなんて。」

プリプリ怒るマリアの肩を、とんとん、とサラがつつき、耳元で小さく何かを呟くのを尚はただ黙って見詰めていた。

「…え?
歌手の不破 尚…?
…判りましたわ。後ほどアカトキに正式に抗議いたします。
では今度こそ失礼。
先を急ぐので、邪魔しない様にちゃんと見張っておいて下さいね。」

行きましょうと促してマリアが歩き出しても、クーは尚を睨みつけて動こうとしない。
サラがクーの腕をそっと取り、「パパ、行きましょう?」と促して、やっとその場から離れたのだった。




4人がその場を去って、ようやく祥子は尚の腕を掴んでいた手を離し、尚に向き直った。


「…もう、何をやってるのよ。
貴方は“歌手・不破 尚”なのよ?
楽曲提供した新曲の発表会だからってお忍びで来てるの分かってるでしょう?
早く戻らないと、発表会が始まってしまうわ。
行きましょう。」

未だぼんやりしている尚を引きずる様にして、祥子もまたその場を離れたのだった。








可愛い麗しキョーコちゃんのサラちゃんスタイル、あの馬鹿尚には勿体ないと思いつつも、馬の骨から愛娘を護るクーパパ書きたさ故に出しましたとさ♪