大食い大会から数日後。


昼の営業を終え、後片付けをしている太平軒に真紀が訪ねてきた。


「あれ、会社は?」


「早退してきたの。」


「具合でも悪いんか?」


「別にそういうわけじゃないけど・・・・・・・・・・」


真紀はあいまいに答えた。


「それより明人時間だいじょうぶ?」


「えっ、ああ、ちょうど今終わったとこやから。」


「悪いけど、つき合ってくれへん?」


「ええよ。」


「じゃあちょっと出てくる。」


明人は博と綾子の方を見て声をかけた。


「ああ、ゆっくりしてきたらええわ。」


真紀のただならない様子に博と綾子も心配顔であった。




「っで、何があったん?」


近所のカフェで注文を終えると明人は単刀直入に尋ねた。


真紀はうつむいて考え込んでいたが覚悟を決めたのか顔を上げた。


「実はね、私、スカウトされたの!」


「スカウト?」


思いがけない言葉に明人は素っ頓狂な声を出した。


真紀はゆっくりうなずくと


「前の大食い大会ね、一応テレビ中継もされてて東京の事務所の人が見てたらしいの。」


「その事務所、今度大食いできる女の子でユニット組んで売りだすねんて。」


「なるほど、それで真紀に白羽の矢が立ったってことか。」


「そうみたい。」


真紀は言い終わると再びうつむいた。


明人も腕組みをして黙り込んだ。


その間に注文したサンドイッチとアイスティーが運ばれてきた。


とりあえず明人はサンドイッチに手を伸ばし食べ始めた。


明人が食べている間も真紀はずっとうつむいたままだった。


「なあ、真紀。」


食べ終え人心地つけた明人は真紀に声をかけた。


「おもいきってやってみたら?」


「えっ!」


真紀は驚いて明人を見た。


「やってみたいんやろ、真紀は。」


「うん・・・・・・・でも明人は嫌なんでしょ。」


「正直言うとね、でも真紀の人生やし俺が反対するのもおかしいやん。」


「でもやるとなったら私東京に行かなあかんねん。」


「それでも真紀はやりたいねんやろ。」


「う、うん・・・・・・・・」


真紀は力なくうなずいた。


「それやったらおもいきってやったらええねん。」


「やりたいことやれへんかったら後で絶対後悔するから。」


「明人・・・・・・・・・」


真紀はいつの間にか目を潤ませていた。




数ヶ月後。


「なあなあ、この真ん中で食べてる須藤真紀って子、ここに来とったん?」


テレビのグルメ番組に真紀が出演しているのを客の1人が見つけた。


「そうですよ、うちのいいお客さんでした。」


「ねぇ、明人。」


結衣は明人の方を見た。


「俺に振るな!」


と言わんばかりに結衣を睨みつけると


「そうなんですよ。」


客には引きつった笑顔を見せる明人であった。