明人と真紀がつき合い始めて数か月が経過した。


その日、いつもの待ち合わせの喫茶店にあらわれた真紀は妙にうれしそうだった。


「何かええことでもあったん?」


「じつはね、じつはね、大食い選手権に出ることになったの!」


真紀は待ってましたとばかりに満面の笑みを明人に向けた。


明人もいっしょに喜んでくれると思ったのだ。


しかし・・・・・・・・・・


明人は渋い表情だった。


真紀は意外に思いながら


「喜んでくれへんの?」


明人は渋い表情のまま


「俺、あんまりああいうの好きじゃないから。」


「なんで?私普段から大食いやん。」


「それはたまたま食べる量が多いだけで無理して食べてるわけじゃないやろ。」


「うん、そりゃまあ・・・・・・・・」


「でも、勝負事になったらお腹いっぱいでも無理して食べなあかんやん。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「俺、そういうの嫌やねん、作る側の人間として。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「せっかく作ったもの無理して食べられるって。」


真紀は何も答えずただうつむいていた。


この日、デートはまったく盛り上がらなかった。


真紀が落ちこんだままほとんどしゃべらなかったからだ。


さすがに明人も気の毒に思い


「あのさぁ、そんなに落ちこまんでもええやん。」


「別に出るのに反対してるわけじゃないし。」


真紀は不安そうに明人を見た。


「でも嫌なんでしょ。」


「まあ、そうやけど・・・・・・・・」


明人は困ったように頭をかいた。


「でも真紀がやりたいねんやったら応援する。」


「ホンマに?」


途端に真紀は表情を明るくした。


「うん、約束する。」


「その代り無理はするなよ。」


「それだけは絶対守って。」


「体壊したらバカみたいやから。」


真紀は大きくうなずくと


「うん、私も約束する、無理はせえへんから。」


ニッコリ微笑んだ。


「そうと決まったら何か食べに行こう!」


「何でそうなるの?」


「だって今日落ちこんでたからぜんぜん食べれてないもん。」


「あ、あれで?」


「当たり前、なんてったって大食い選手権に出るねんから。」


真紀はそう言うと明人の腕を引っ張って歩きだした。