「へぇ~そうなんや、よかったやん!」
結衣はクスクス笑いながら言った。
「お前他人事やと思っておもしろがってるやろ。」
明人は結衣を睨みつけた。
「そんなことないよ。」
「ウソつけ!」
夕食時、綾子がデートに至るてん末を結衣に話していた。
「まあええやんけ、デートしてホンマに気に入らんかったら断ったらええし。」
「そうやん、別にふてくされることないでしょ。」
博と綾子は気軽そうである。
「まあ、高いお店だけは注意しなさいよ。」
「ホンマ、ホンマ、そんなに食べる人と焼肉行ったりしたら明人破産やわ。」
「お前やっぱりおもしろがってるやろ。」
明人はもう1度、結衣を睨んだ。
コン、コン
「開いてるよ。」
明人がベッドに寝転がっていると部屋がノックされた。
「ちょっといい?」
入って来たのは結衣だった。
「何?」
「ごめん、寝てた?」
「いや、横になってただけやから。」
明人はベッドの上に起き上がり端に座った。
結衣もその横に腰を下ろした。
「真紀さんって人とデートするのそんなに嫌?」
「ホンマに嫌やったら断ってるよ、ただあんまり気楽にこういう話受けるの気が進めへんだけ。」
「ふ~ん、ホンマにそれだけ?」
結衣は明人の目を見つめた。
「何やねん、それだけって。」
「やっぱり真理のこと気にしてるんとちがう?」
明人は表情を曇らせた。
「だから何やねん、真理のオヤジさんにあんなふうに言われたからって急に忘れられるわけないやろ!」
無意識に声のトーンは上がっていた。
「それはわかる、けどやっぱり恋はした方がいいと思う。」
「そんなん自分でもわかってる、しゃあから今回のデート引き受けたんやろ。」
明人がぶぜんと言い放つと結衣はうつむいて黙り込んだ。
「俺のことより自分のこと心配せえよ。」
「私はモテモテって言うたやん。」
結衣は顔を上げた。
「それはその他大勢のボーイフレンドの話やろ。」
「真剣に深く付き合ってるのって誰もいてないくせに。」
「ほっといてよ、今はそれで楽しいの。」
「ホンマにそれだけか?」
明人は先ほど言われたセリフをそのまま返した。
「何よ、それだけって?」
「結衣こそ真剣に恋愛すること嫌がってないか?」
結衣は一瞬、言葉に詰まり
「そんなわけないやんか!」
ヒステリックに言うと立ち上がって部屋を出ようとした。
「結衣!」
それを明人が呼びとめた。
「何よ。」
「俺は結衣のこと幸せにすることはでけへんよ。」
「しゃあからちゃんと幸せにしてくれる奴見つけてくれ。」
「そんなんわかってる。」
結衣は寂しそうな声でつぶやくと部屋を出て行った。