「だいじょうぶか、真理?」


駅への道すがら、明人は真理子を気遣った。


どう考えても涙を流すほどのバカ話をしていた雰囲気ではなかった。


「うん、ホンマは結衣にいろいろ悩み聞いてもらってたの。」


真理子は明るい表情を見せた。


それは今まで明人が見た中で一番晴れやかなものだった。


「そっか、悩み事あったんや。」


「ごめんね、女の子同士でしか言いにくいことやったから。」


「そういうことあるよな、俺も男同士の方が話しやすいこともあるし。」


明人はうなずいて理解を示した。


「ありがとう、明人。」


真理子は明人に寄り添い腕をからめた。


「いや別にそんなたいしたことないよ。」


明人は照れ臭そうに笑った。


「ねぇ明人。」


「何?」


「今年も海行こうね。」


「ああ、もちろん。」


「観たい映画もいっぱいあるからつき合ってね。」


「うん。」


明人はうなずきながらも意外な感じがした。


真理子は今まであれこれリクエストしてくることが少なかった。


やはり真理子の中で何かが変わったようだ。


明人がぼんやりそんなことを考えているうちに駅に到着した。


「駅から家まで気ぃつけろよ。」


「だいじょうぶ、駅からは自転車やし。」


「家着いたら連絡くれよ。」


「うん、着いたらすぐに電話する。」


「じゃあな。」


手を上げて見送ろうとする明人に真理子は抱きついた。


「どうしてん。」


突然のことに明人は戸惑った。


真理子は明人の胸に顔をうずめ


「明人とつき合えてよかった。」


「私、ホンマに幸せ。」


明人は真理子に顔を上げさせ


「なあ、真理そういうのやめようぜ。」


「何か縁起悪いやん。」


「俺らはこれからもずっといっしょやから。」


「なっ!」


「うん、ごめんもう言わへんね。」


真理子は素直にうなずいて明人から離れた。


「じゃあな、電話待ってる。」


明人はあらためて手をあげた。


「バイバイ!すぐ電話するね。」


真理子も手を振って応えた。


しかしその後、真理子から連絡が入ることはなかった。