数日後。


「そろそろ暖簾、中に入れてくれるか。」


ラストオーダーの時間を過ぎ、テーブルの上を片づけていた結衣に博が指示した。


「は~い。」


結衣は洗い物の食器をカウンターの上に置き店の外に出た。


ちょうどそこに真理子が現れた。


「あれ?どうしたん?」


連絡もなく突然やって来た真理子を結衣はいぶかしんだ。


「ちょっとね、それより明人は?」


「中でお皿洗ってるけど、明人に用事なん?」


「うん、まあ・・・・・」


真理子は奥歯に物が挟まったような言い方をした。


「とにかく入って。」


結衣は中に招き入れようとしたが


「できたら明人呼んでほしいの。」


真理子はそれを拒んだ。


結衣は当惑した。


が、明人を呼ばないわけにもいかない。


「ちょっと待ってて。」


結衣は中に入っていった。


「よう真理、どうしてん。」


間もなく明人が出てきた。


真理子は明人の姿を見るとホッとしたように笑顔を見せ


「ちょっと話あって、ごめんね仕事中に。」


「いや、もう終わるとこやからええねんけど。」


「そこの神社までいい?」


「ああ、ええけど中やったらまずいの?」


「うん。」


うなずいた真理子の視線は明人の後ろにいる結衣に向けられていた。


「んじゃ、ちょっと行ってくるわ。」


「おっちゃんとおばちゃんに言うといて。」


明人は振り向いて結衣に頼んだが一瞬ドキッとした。


「うん、わかった。」


そう言ってうなずいた結衣の瞳がひどく寂しげに見えたからだ。