「今度の4月からアメリカに転勤になったんや。」


「えっ!」


その場にいた全員が驚いた。


「それって左遷なんか?」


博は一番気になることを尋ねた。


正人は首を振って


「いや、栄転になる。」


「支社長の肩書きがつくし、給料もだいぶ上がる。」


博はホッとした表情を見せ


「何やそれやったらよかったやないか。」


「俺はてっきり飛ばされたんかと思ったよ。」


「でも・・・・・・・・・・」


綾子が思い出したように


「正人さんの会社にアメリカ支社ってあったっけ?」


「なかったからこれから作ることになるんや。」


「それやったらたいへんやん。」


綾子は心配そうな顔をした。


正人はうなずくと


「ああ、たいへんやから2年や3年では帰って来られへん。」


「下手したら勤めてる間はずっとアメリカにおる可能性もある。」


「じゃあ、父ちゃんそれやったら・・・・・・・・」


正人は直子と明人を見て


「いっしょにアメリカに行ってもらうことになる。」


直子はうなずいたが、明人は驚きそして結衣を見た。


結衣の瞳からは大粒の涙がポロポロとあふれていた。


正人は結衣をなぐさめるように


「結衣ごめんな、短い間やったら俺1人で行くねんけどな。」


「これから20年近い年月、家族がバラバラになるわけにはいかんから。」


「わかってな。」


結衣はそれには答えず席を立って2階に上がっていった。


「結衣!」


綾子が呼んで追いかけようとしたが


「やめとけ、今はそっとしといたほうがええ。」


博が制した。


正人は明人の方を向き


「明人、お前も寂しいと思うけどがまんしてくれよ。」


「と、父ちゃん・・・・・・・」


明人はそれに対して何も答えられないでいた。