ちょうどそのとき結衣が上がってきた。


「じゃあ、下に行くから2人で喧嘩せんと宿題やっとくのよ。」


直子はそう言い残すと下に降りていった。


後に残された2人はとりあえずいつものようにランドセルから教科書とノートを取り出すと宿題を始めた。


さすがに2人ともしゃべらない。


ただ時折チラッ、チラッとお互いの顔を覗き見合っていた。


何度目かのとき、互いの目が合った。


2人ともアッという表情をし慌てて目をそらせた。


何となく気まずい空気が流れた。


そのとき


「さっきはごめんね。」


結衣がおもいきって謝罪の言葉を口にした。


「ひどいこと言うてクッション投げつけたりして。」


いつもとはちがう素直な結衣に明人は戸惑い


「あ、いや、お、俺も悪かったから。」


「から揚げの方が大事とか言うてごめん。」


思わずつられて謝ってしまった。


「ううん、もう気にしてないよ、明人の気持ちわかってるから。」


結衣の穏やかな言葉に明人もうなずき


「うん、結衣は俺のたった1人の妹やから。」


本心を打ち明けた。


だがそれを聞いた途端、結衣の顔色が変った。


「ちょっと待ってよ、何勝手に妹って決めてんのよ。」


「助けたったから妹でええやん。」


「良くない!それとこれとは話は別!」


結衣は先ほどとは別人のように声を荒げた。


2人は奇しくも同じ日に生まれた。


先に生まれそうになったのは結衣であった。


しかし難産で頭が出たところから、完全に生まれるまでかなりの時間を要した。


一方、明人の方はわりと安産で結衣を追い越しあっさり生まれてきた。


そのために自分が兄だと主張しているのだが、結衣はそれを認めていなかった。


「私のほうが先に顔を出してんから私がお姉ちゃんでしょ。」


「なんでやねん、どんくさくていつまでも出られへんかったくせに!」


「何よ、その言い方は!」


「そっちこそ何やねん!」


ヒートアップする2人の声は当然、下にまで聞こえていた。


直子は呆れ顔で


「ちょっと静かかなって思ったらもう喧嘩してる。」


博は苦笑いで


「またどやしてこうか?」


綾子は手を振って


「今日はもうええやん、あの2人は仲良う喧嘩してるのが合ってるんでしょ。」


「そうやな。」


博は騒がしい声が聞こえる2階を見上げた。