直子が2階に上がってみると明人が仏頂面で座っていた。


「どないしたん?」


「結衣の奴、いきなりクッション投げつけやがって。」


直子はきびしい表情で


「そりゃ、自分よりから揚げの方が大事って言われたら誰だって怒るに決まってるでしょ。」


「だってホンマやもん。」


明人はプイっとそっぽを向いた。


直子はうなずくと


「そう、わかったわ。」


「明人、あんたここには来んとき。」


「もう5年生やし、学校終わったら家で留守番できるでしょ。」


「から揚げはお母さんが持って帰ってあげるから。」


「それでいいよね。」


途端に明人の顔に狼狽の色が浮かんだ。


「そんなん困る。」


「何が困るんよ。」


「だ、だってここでお手伝いせなあかんやん。」


「だいじょうぶよ、結衣ががんばるから。」


明人は一瞬言葉に詰まったが


「おっちゃんとおばちゃんに会われへんやん。」


「それやったらごはんだけ食べにおいで。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・」


「結衣と入れ違いに食べたら顔合わさんで済むでしょ。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・」


「おっちゃんとおばちゃんにも言うとくから。」


「嫌や。」


明人が小さくつぶやいた。


「何?聞こえへん。」


「嫌や!」


今度は大きい声で叫んだ。


「何で嫌やのん。」


「あんた結衣よりから揚げの方が大事なんでしょ。」


「そんなんやったらもう会わへん方がええやないの。」


「でも嫌やねん!」


明人は必死で母に訴えかけた。


「それやったらちゃんと理由言いなさい。」


直子の言葉に明人は黙り込んだ。


「ホンマは結衣のこと大事に思ってるんでしょ。」


明人は黙ったままうなずいた。


直子はそれを見ると納得し


「それやったらこれからは変なこと言わへんの。」


「なんぼ照れ臭そうてもね。」


「わかった?」


明人はもう1度無言のままうなずいた。