「明人、ごめんね。」


2階でランドセルを置いている明人に向って結衣は涙を流しながら謝っていた。


明人は何となく居心地が悪そうに


「何で結衣が謝ってんねん。」


「だって私のせいで明人怪我したから。」


「アホか!別にお前のために怪我したわけちゃうぞ!」


「どういうこと?」


「だって結衣のこと助けへんかったら、おっちゃんとおばちゃんに嫌われてから揚げ食べられへんようになるやん。」


「から揚げ?」


「そうから揚げ、ここのから揚げ食べられへんようになったら俺死んでまう。」


この時点で結衣の涙は止まっていた。


逆に怒りの表情が浮かんでいた。


「それってさあ、私よりから揚げのほうが大事ってこと?」


明人は胸を張って


「あったり前やんけ!」


この一言で結衣は切れた。


近くにあったクッションを投げつけ


「アホ、バカ、サイテイー!」


そのまま下に降りていった。


「どないしたん?」


大声を出し階段を駆け下りてきた娘に綾子が声をかけた。


「だってアイツ私助けたん、から揚げのためやって。」


それを聞くと綾子と直子はプッと吹き出し、直子は2階に上がって行った。


綾子は店の隅でむくれている娘の隣に座り


「どこの世界にから揚げのために顔中血だらけになるまで殴られる人がおるの?」


「だって明人が自分でそう言ったもん。」


綾子はヤレヤレといった表情で


「明人恥ずかしがりやから、結衣のこと大事って言うはずないでしょ。」


結衣は顔をあげ


「で、でも・・・・・・・・・・」


「明人は結衣のことすっごく大事に思ってるの。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「だからどんなに自分が殴られても結衣のこと心配してたでしょ。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「ちがう?」


「う、うん。」


「わかったんやったら明人が照れ隠しで言うたことでいちいち怒れへんの。」


「結衣も明人のこと大事でしょ。」


母の言葉に結衣はコクリとうなずいた。