「おかわり!」


明人が元気よく茶碗を差し出した。


「まだ食べるの?」


横に座っている結衣はいつもながらその食いっぷりに呆れていた。


「ええやんけ、いっぱい働いたからお腹すいたの。」


「ちょっとお皿運んだだけやんか。」


「うっさいな~」


「何よ!」


「こら、また喧嘩してる、ええ加減にしなさい。」


結衣の母、綾子が明人の茶碗に山盛りのごはんを盛って運んできた。


ピーク時の忙しさが過ぎ去り、小学生の2人には先にまかないが振舞われていた。


今日のまかないは鶏のから揚げである。


明人の大好物ですでにごはんを2杯たいらげ3杯目に突入するところであった。


「結衣!人が美味しく食べてるのにチャチャ入れな!」


「明人!お腹も身の内やからこれでやめときや!」


「は~い。」


またも2人は声をそろえて返事をした。


そのとき1人の中年男性が店に入ってきた。


「父ちゃん、おかえり。」


すかさず明人が声をかけた。


明人の父、川村正人である。


会社勤めの正人は直接家に帰らず必ずここに寄る。


博のはからいで川村家の夕食はほとんどここで済ませていたのだ。


結衣はさっと立ち上がり冷蔵庫からビールを取り出した。


「おっちゃん、お疲れ様でした。」


正人にグラスを渡すとお酌した。


「おっ、ありがとう、今日は2人とも仲良うしとったか?」


「へへへっ」


正人の質問に明人はバツが悪そうに笑い、結衣も困った顔をしていた。


「何や、また喧嘩してたんか。」


「そりゃそうや、この2人が仲良うしとったら明日は雪や。」


博がから揚げを正人の前に置きながら笑った。


「確かにな。」


正人もつられて笑った。


この2人はもともと学生時代からの友人で先に博とつき合っていた綾子の紹介で正人と直子は知り合った。


今でも仲が良く休日には2人で飲みに行ったりもしていた。


「じゃあ、直ちゃんもごはん食べてあがり。」


「すいません、お兄さん。」


「お姉ちゃん、お先ね。」


直子は博と綾子に断ってから正人の横に座って食事を始めた。


川村家のいつもの食事風景である。


明人は3杯目のごはんをかきこみながらニコニコしていた。


彼は家族そろって美味しい物が食べられるこの時間が一番好きであった。