バシッ!


拳のミドルキックが晶の脇腹をとらえた。


とっさに進行方向に飛んでダメージを逃がしたが、それでも若干利いている。


最近、急に拳の動きが鋭くなってきた。


相対していても何となく落ち着きがあり、隙がなくなってきているような感じがした。


その原因が今日真紀子から聞いた拳の日常の変化と関係があるのか?


そんなことを漠然と考えながらスパーリングをしているため、逆に晶は隙だらけであった。


反撃のハイキックを放ったが、あっさり軸足を払われ尻もちをついた。


晶は反射的に胸を両手で隠した。


拳は寝技は仕掛けてこないが、隙を見せると胸をさわってくる。


しかしそんな晶の予想とは裏腹に拳の拳が晶の目の前で寸止めされた。


拳は晶を睨むと


「お前、何やってんねん!」


「ボォーっとしやがって!」


「やる気ないねんやったら帰れ!」


「ご、ごめん。」


晶は普段自分が口にしているようなセリフを言われ、面目なさそうに謝った。


完全に立場が逆転していた。


「あのさ、拳。」


「何やねん。」


「どうしたん?」


晶はおもいきって拳に訊いてみた。


拳はやや当惑したような表情を見せ


「はぁ?何の話やねん。」


「何か急に落ち着いたっていうか、動きも鋭なってるし。」


「そうか?」


「うん。」


晶はうなずいた。


「それにおばさんから聞いたけど、何かいろいろ家のこと手伝ってるって。」


「チッ、いらんこと言いやがって。」


拳はバツが悪そうにつぶやいた。


「何よりさっき胸さわってけえへんかったやん。」


「そういう言い方すんなよ、俺変態みたいやんけ!」


「変態やんか!」


「!!」


拳は言葉に詰まり、そのままそっぽを向いて更衣室に行こうとした。


晶はあわてて拳の肩をつかみ


「ちょっと、ちゃんと答えてよ。」


「別にええやんけ!」


拳は面倒くさそうに晶の手を振り払った。