「ちょっと待ってて、すぐに作るから。」


静也はテーブルに座っている拳に声をかけた。


荷物を持ってもらったお礼にホットケーキを焼くつもりなのだ。


「ああ。」


拳は短く返事をすると辺りを見回した。


家の中はきちんと整頓されていて掃除も行き届いている。


この家の中を見て誰も中学2年生男子中心の男所帯とは夢にも思わないだろう。


それだけ静也がきちんと家事をこなしているということなのだ。


晶から静也の学校の成績は常に学年でトップクラスだと聞いていた。


しかしそんなことは少しも気にならなかった。


勉強はできなくても喧嘩とスポーツは誰にも負けない自信があった。


実際、喧嘩で負けたこともないし、体育の授業で他人に後れをとったこともなかった。


だが今日静也の実情を知ってしまうとそんなことで勝った負けたと考えていた自分がいかに小さかったか、いかに子供だったかを思い知らされた。


「おまたせ!」


静也の声に拳はドキリとし我に帰った。


いつの間にかホットケーキは焼き上がり、拳の前で甘い香りを立ち昇らせていた。


拳は手を合わせホットケーキを切って一口食べた。


何の変哲もないホットケーキだが、うまいと思った。


「静也。」


拳がおもむろに口を開いた。


「何?」


「お前すごいな。」


「こんなん材料混ぜて焼くだけやから。」


静也が謙遜すると拳は何か言いかけたが


「そっか・・・・・・・・」


思い直してホットケーキを食べ続けた。