一部始終を見ていた俺は


(こんなとこで死んでられへん!)


(絶対に生き帰ってみせる。)


そう思った。


生き返って沙希にごめんって。


修にありがとうって。


そして明日香にいっしょに生きて行こうって!


気持ち伝えたかった。


そのとき、目の前が真っ暗になった。


(えっ、えっ、なんで?なんで?)


(俺、もうあかんの?)


(こんなとこで死ぬの?)


(そんなん困る。)


(このままやったら死んでも死にきれへん。)


うろたえている俺の手を誰かが握った感覚があった。


いや、誰かじゃない、この手は明日香の手。


明日香が俺の手を握っている。


そして声が聞こえてきた。


「拓、ごめんな。」


「今までずっとはぐらかしてきて。」


「ホンマは中学のときから拓のこと気になってた。」


「でもその気持ちは単に友情とか愛情とかとちがってた。」


「俺、お前がうらやましかった。」


「嫉妬してた。」


「お前はどんなに鍛えても悲鳴あげたりせえへん強い体持ってるから。」


「俺もお前の体がほしかった。」


「お前の体があったら俺は、俺は・・・・・・・・・・」


そこで明日香の声は一旦途切れた。


手はしっかりと握ったままで。


しばらくするとまた声が聞こえてきた。


「けど、中学の最後のときにおもいっきり戦えてなんか吹っ切れた。」


「あのときから俺はお前に自分自身を重ねてた。」


「だから俺の技を引き継いでくれたときはうれしかった。」


「お前が俺の技使って戦ってるの見てたら、俺自身が戦ってるような気がしてた。」


「ううん、気だけやない。」


「去年の決勝のとき、一瞬やけど確かに俺ら1つになってたよな。」


「拓、お前はわかってたやろ。」


「俺らは2人で1人。」


「今までずっと目そらしてたけど・・・・・・・」


「もう逃げへんから!」


「だから戻ってきてくれ。」


「俺のこと1人にせんとってくれ!」


「お願い!」


うれしかった。


明日香の本心が聞けたから。


明日香も俺を必要としてくれている。


普通の男女の恋愛とはちがうかも知れない。


それでもよかった。


明日香といっしょに生きていきたい。


明日香の気持ちに応えたい。


そう思って明日香の手を力いっぱい握り返した。


そうしたら目が開いた。


そこには泣き腫らして目を真っ赤にした明日香の顔があった。


俺が目を覚ましたのがわかると


「た・・・・・・・・・・く?」


俺は何とか意思表示したかったが、まったく体が動かなかった。


だからせめて笑った。


つもりだった。


それでも明日香は俺の手に顔を寄せて


「良かった~」


そうつぶやいて泣いていた。