すぐに試合が止められ担架が運び込まれた。


修は意識が戻らないまま運ばれていった。


その様子を呆然と見ていた明日香に


「そばに就いてたれよ。」


俺は極力冷静に話しかけた。


「えっ、でも・・・・・・・・」


明日香は返事を渋った。


すぐに俺の試合が始まるからだ。


そんなことは百も承知だがあえて


「お前、修の恋人やろ!」


「こんなときにそばに居てなかったら意味ないやんけ!」


怒鳴りつけた。


明日香は俺が怒鳴ったりしたので、体をビクッと震わせていた。


俺はいつもの口調に戻して


「そうした方がええって。」


「俺のことは気にするなよ。」


「なっ!」


そう言って明日香の肩をポンっと叩いた。


横で聞いていた和叔父も


「拓の言うとおりや。」


「鈴本は鬼塚くんのそばについてたるほうがええ。」


「拓のことはまかせとけ。」


「もししょうもない負け方したら、道場帰ってシバキまわしたれ!」


フォローしてくれるのはありがたいが


(いらんこと付け加えるな!ボケー!)


明日香も和叔父にまで言われたのでやっと納得したようだ。


「じゃあ、行ってくる。」


明日香は控え室に向かって歩き出したが途中で立ち止まった。


「拓、負けんとってね。」


真っ直ぐに俺を見つめた。


俺はただ静かにうなずいた。


明日香はそれを確認すると安心したように控室に向かった。


ちょうどそのとき俺のゼッケン番号と名前が呼ばれた。


返事をして試合場に入ろうとすると沙希が泣きそうな顔で手を握ってきた。


修がKOされたので不安なのだろう。


「だいじょうぶやから。」


俺は沙希を安心させるように力強く手を握り返しそれから試合場に入った。