組手が始まった。
修練館では組手の時間が長い。
その日来ているメンバーが総当たりするためだ。
当然、そこそこに腕が立たないと半殺しの目にあってしまう。
入門当初の俺のように。
さすがに修はそんなことはなく、順調にこなしているようだ。
そしていよいよ俺と当たる番になった。
「やっと去年のリベンジができるわ。」
修が小声で話しかけてきた。
「あほか、逆に返り討ちにしたる。」
俺も小声で答えるとお互いニヤッと笑った。
組手が始まると同時にハイキックを放ち合った。
修の蹴りは去年のようなモーションの大きさはなく、シャープで鋭くなっていた。
俺の蹴りは明日香の特訓のおかげでスピードと伸びが増した。
いきなり相討ちである。
今度はお互いに距離を詰め、パンチを打ち合った。
去年は俺のパンチに目を白黒させガードに徹していた修だったが、今は俺と脚を止め打ち合っている。
驚くべき進歩である。
キックも含め相当の修練を積んだことがうかがえる。
一進一退の攻防が続き、修との組手が終了した。
試合なら引き分けだったろう。
「ちっ、リベンジし損ねた。」
修はそんなことを口にしたが表情は晴れ晴れとしていた。
次は明日香と修の組手である。
俺は石本館長に断って一回休んだ。
明日香と修の組手をじっくり見学するためだ。
明日香を見ると異常にうれしそうだ。
おそらく今回、修の出稽古に骨を折った一番の理由は戦ってみたかったからだろう。
そう明日香の顔に書いてあるようだった。
「どうしたん?」
俺が突然横に来たので沙希が心配そうな顔をした。
「明日香と修の組手見学するためやから。」
「何や、そうやったんや。」
「でも明日香だいじょうぶかな?」
今度は明日香のことを心配をする沙希である。
話している間に次の組手が始まった。
俺のときと同じように始まると同時にハイキックを放ち合った。
が、重さはなくてもスピードは明日香の方が上だった。
一瞬早く、明日香の蹴りが修の顎先を捉えた。
ダメージはないようだが、修の顔には驚きの色が見えた。
実際に手合わせしてみてそのスピードに驚愕したのだろう。
修の顔つきが変わった。
ガードを固めて突進した。
その突進を止めるように明日香のローキックが修の内腿にヒットした。
修はバランスを崩しながらも明日香の鎖骨めがけてパンチを打ち下ろした。
明日香はそれをギリギリで前転してかわした。
そのまま浴びせ蹴りを放った。
修はさらに踏み込んで明日香の踵を肩口で受けた。
しかしバランスが保てず2人はそのままもつれ合うようにして倒れた。
その後も修は明日香のスピードとトリッキーな動きに翻弄され続けた。
何度もハイキックをもらい、顔は血まみれである。
それでも最後は意地を見せ、明日香のボディーに渾身のアッパーを打ち込んだ。
明日香の体がくの字に折れ倒れていった。
「明日香、だいじょうぶか?」
俺と沙希が駆け寄ると修が声をかけていた。
明日香はその呼びかけに手を上げて応えていた。
しばらくして
「もうだいじょうぶ。」
苦しそうながらも声を出した。
「くっそー!もうちょっとで勝てると思ったのに!」
それから猛然と悔しがり始めた。
俺と修は苦笑いするしかなかった。