「ねぇ、ところで鬼塚くんのことなんて呼ぶの?」


帰り道、沙希が明日香に尋ねた。


俺は沙希を家まで送りに行っている。


「えっ、考えてなかったわ。」


「何て呼ばれたい?」


明日香が鬼塚に訊く。


「別に好きに呼んだらええよ、ただし赤鬼はあかんぞ。」


明日香はちょっと吹き出して


「まさか自分の彼氏赤鬼って呼べへんよ。」


「じゃあ、みんな名前で呼び合ってるから修でいい?」


「ああ、それやったらええよ。」


鬼塚はうなずいた。


ちょうどそのとき別れる場所についた。


「じゃあな。」


「また明日ね。」


そう言って離れていく修と明日香を見送って俺は沙希の家に向かった。


「ねぇ拓、ちょっと公園寄って行こ。」


不意に沙希が声をかけてきた。


用件はだいたいわかっていた。


今日の俺の態度はひどかった。


明日香と修がつき合うことになったって聞いただけでめちゃめちゃ動揺してた。


この前、沙希のこと一番大事にすると約束したばかりである。


そんなことを考えながらベンチの前に自転車を止めた。


2人してベンチに腰かけると俺はまず沙希に謝ろうとした。


そのとき頭を抱きかかえられた。


驚いて固まっていると沙希の声が聞こえてきた。


「拓、つらいよね。」


「明日香が修とつき合うことになって。」


「たとえふりでも。」


(!!)


「拓がどれだけ明日香のこと好きか知ってるよ。」


「この前、私のこと一番大事にするって言うてくれたんも、めっちゃ無理してるってわかってるから。」


「だからね、私に気使わんでいいよ。」


俺は言葉もなかった。


「でもね、これだけはわかってて。」


「明日香はいつか拓の前から去って行く人やから。」


「そのときがいきなり来たらショック大きすぎるから。」


「今から少しづつ慣らして行こう。」


「ねっ!」


「うん。」


俺はただうなずくしかなかった。


それからゆっくり頭をあげ、今度は俺が沙希を抱きしめた。


「ごめんな、沙希。」


「動揺したりして。」


「今度からはこんなことないようにする。」


「急には無理でも明日香のことは絶対忘れるから。」


「だからこれからも俺のそばにおってくれる?」


沙希は俺の背中にまわしている腕に力をこめ


「決まってるやん。」


「私はずっと拓のそばにいてるから。」


「拓がつらいときいつでも抱きしめてあげるから。」


「ありがとう。」


俺は沙希の気持ちに応えるようにキスをした。