拳は野菜を拾った後、静也の荷物を半分持った。


荷物は食料品の他、トイレットペーパー、シャンプー、洗剤などの日用品である。


日曜日は安売りをしているのでまとめ買いしに来たのだという。


拳の家ではトイレに入れば当たり前のようにトイレットペーパーがあり、何も考えずに使っても決して減ることはない。


少なくなってきても次にトイレに入ればちゃんと新しいものが補充されていた。


それは拳にとっては当たり前のことであった。


しかし同じ中学2年の静也にとってはそれは当たり前ではなかった。


彼は自分自身で値段を調べ、安売りしているときに大量に買いに行かなければ家からトイレットペーパーがなくなるのだ。


もちろんそれだけでなく、日常の家事はほとんど静也自身がやらなければならない。


彼の家族は出張が多く留守がちの父親だけだから。


静也の母は彼を産んですぐに亡くなった。


そのため静也は写真でしか母の顔を知らない。


昔から出張の多かった父親に代わり静也を育てたのは彼の祖父母だった。


だが静也が小学校に上がる頃、祖父が亡くなった。


残された祖母も静也が小学校高学年になった頃、ガンの告知を受けた。


発見されたときすでに手遅れの状態で、後半年の命だと宣告された。


それでも彼女は懸命に生きた。


残された孫が困らないよう、身の回りのことが1人でこなせるようになるまで。


そして静也が何とか身の回りの事ができるようになったとき彼女は亡くなった。


静也が中学校に入ってすぐのことである。


拳はこの話を聞いて何となく納得した。


静也の態度というか雰囲気にである。


どこか落ち着きがあり、同い年とは思えないようなところがあったのだ。


先ほどカツアゲされていたときも普通にビビっているわけではなく、まるで大人が子供を諭すような言い方をしていた。


まあ、言われたほうは余計に癪にさわるのだが。


そう、すでに幼稚園のときからどこか落ち着きのある大人びた雰囲気を持っていた。


そういうところが気に入らなくて、拳は静也をいじめていたのだ。


逆に晶はそういうところに惹かれたのかもしれない。